9 / 21
第七話─余波─
しおりを挟む
「.........疲れた」
私は帰宅してすぐ、ため息とともにそう呟いた。
今日の疲弊は、人生で一番だと言っても過言ではないほどのものだった。
それもそうだ。今まで避けに避けまくっていた相手と対面で話し合ったのだから。
最初こそ、いけるかもしれない、と謎の自信があったが、いざ、彼を目の前にすると足がすくみ、気を抜くと震えが止まらなくらいそうだった。
今思へば、それも当たり前だ。昨日今日で恐怖がなくなる訳ではない。ずっと、怖いと思っていた人に会ったのだから、恐怖を感じない方がおかしいのだ。
それにしても疲れた。早く寝て明日に備えるためにお風呂に入ろう。
そうして、私は動きだした。
「はぁー、暖まる」
湯船に浸かって、今日の疲れを癒す。
ほんの少しリラックス出来た頭で、私は今日のことを振り返った。よく働かなかった頭でも、上手く対応出来ていたように思う。態度だけ見れば、成功と言えるだろう。......態度だけ見れば。
私はどうしても不安が拭えない。
あの対応で果たして良かったのだろうか?
彼に幻滅してもらえたのだろうか?
「わからない......」
あの時の彼の嬉しそうな笑い声が、頭にこびりついて離れない。恐怖状態でもわかるほど、あの時の彼は本当に嬉しそうだった。
今になってわかる。
私は冷静じゃなかった、と。冷静な振りをしていただけで、全然周りが見えていなかった。
だからわからない。
どうして彼があんなも嬉しそうだったのか。
私の対応が、私にとっての正解だったのか。
私はあの時どうすれば良かったのか。
そして、彼がどう私のことを判断したのか。
何もかもわからない。
「わからないよぉ.........」
様々な疑問と感情が入り交じって泣き出してしまう。
私はどうすれば良かったの?どうしたら良かったの?
お願い、誰か、お願いだから
誰か
「.........たす............けてっ!」
私に逃げ道をちょうだい。
貴方の執着なんていらない。
多分、まだ貴方は私にそれほど興味を抱いていないのでしょう?
だって、貴方がそんな簡単な人じゃないのは、見ていればわかる。本当に今まで見たことのなかった反応をしたから、少し興味が湧いただけだったのでしょう?
じゃあ、もうほっといて。
これ以上、人との関わりなんていらない。
貴方なんていらないから、もう私に関わらないで
お願いだからほっといて。
「うぅ......ふっえぇ」
嗚咽が漏れる。
ひとしきり泣いた後、就寝準備を済ませ布団に潜る。
もう何も考えたくない。
強く瞳を瞑る。
襲いくる眠気に抗うことなく微睡ろんでいく。
そうして、私は思考を放棄した。
もう何もしなくない。
翌日、アラームがなる前に目を覚ました私は、朝一番にそう思った。何もする気がおきない。
でも、残念ながら今日は大学がある。午後からだけど。
そう考えると、助かったかもしれない。単位のことを考えると休むわけにはいかないし、かといって朝から準備して授業を受けに行く気にもなれない。というか、出来ない。
せめて、午前中に落ち着いていますようにと祈りながら、ベッドから抜け出した。
──最悪だ。
恐怖は全然薄まってはくれなかった。むしろ、大学へ行かねばと思う度に、足がすくんでしまった。
あぁ、やっぱり、この恐怖は消えてはくれないのか。
人はすぐには変われないというが、全くもってその通りだ、と身をもって知る。
それに大学内は当然人が多い。様々な気持ちが入り乱れて吐き気がしそうだ。
嫉妬、妬み、蔑み、優越感、嫌悪──
汚いきたない、あらゆる感情がごちゃごちゃにかき混ぜられて、ぐるぐると回っている。
それらの黒い感情が、人たらしめているのだと、わかってはいるが気持ちが悪い。
酔いそう、吐きそう、死んでしまいそう
歩く速度は遅く、鞄をぎゅっと握りしめ、うつむき加減なおかげか、周りからは陰鬱とした人間に見えているのだろう。
先程から、こちらを見てはひそひそと遠巻きに囁かれているのがよくわかる。心配そうに見てくる者も中にはいるが、話しかけてはこない。
自分が可愛いからだ。
勿論、その気持ちはわかる。私だってそうする。
だが、今は誰かにこの苦しみを理解してもらいたくて仕方がなかった。
だって、今にも泣きそうなんだもの。
──お願い。
誰か
誰か
─私に気づいて─
「雪麗っ!」
そんな、鬱々とした気分でいると、不意に力強く呼ばれた自分の名前にハッとした。
私は帰宅してすぐ、ため息とともにそう呟いた。
今日の疲弊は、人生で一番だと言っても過言ではないほどのものだった。
それもそうだ。今まで避けに避けまくっていた相手と対面で話し合ったのだから。
最初こそ、いけるかもしれない、と謎の自信があったが、いざ、彼を目の前にすると足がすくみ、気を抜くと震えが止まらなくらいそうだった。
今思へば、それも当たり前だ。昨日今日で恐怖がなくなる訳ではない。ずっと、怖いと思っていた人に会ったのだから、恐怖を感じない方がおかしいのだ。
それにしても疲れた。早く寝て明日に備えるためにお風呂に入ろう。
そうして、私は動きだした。
「はぁー、暖まる」
湯船に浸かって、今日の疲れを癒す。
ほんの少しリラックス出来た頭で、私は今日のことを振り返った。よく働かなかった頭でも、上手く対応出来ていたように思う。態度だけ見れば、成功と言えるだろう。......態度だけ見れば。
私はどうしても不安が拭えない。
あの対応で果たして良かったのだろうか?
彼に幻滅してもらえたのだろうか?
「わからない......」
あの時の彼の嬉しそうな笑い声が、頭にこびりついて離れない。恐怖状態でもわかるほど、あの時の彼は本当に嬉しそうだった。
今になってわかる。
私は冷静じゃなかった、と。冷静な振りをしていただけで、全然周りが見えていなかった。
だからわからない。
どうして彼があんなも嬉しそうだったのか。
私の対応が、私にとっての正解だったのか。
私はあの時どうすれば良かったのか。
そして、彼がどう私のことを判断したのか。
何もかもわからない。
「わからないよぉ.........」
様々な疑問と感情が入り交じって泣き出してしまう。
私はどうすれば良かったの?どうしたら良かったの?
お願い、誰か、お願いだから
誰か
「.........たす............けてっ!」
私に逃げ道をちょうだい。
貴方の執着なんていらない。
多分、まだ貴方は私にそれほど興味を抱いていないのでしょう?
だって、貴方がそんな簡単な人じゃないのは、見ていればわかる。本当に今まで見たことのなかった反応をしたから、少し興味が湧いただけだったのでしょう?
じゃあ、もうほっといて。
これ以上、人との関わりなんていらない。
貴方なんていらないから、もう私に関わらないで
お願いだからほっといて。
「うぅ......ふっえぇ」
嗚咽が漏れる。
ひとしきり泣いた後、就寝準備を済ませ布団に潜る。
もう何も考えたくない。
強く瞳を瞑る。
襲いくる眠気に抗うことなく微睡ろんでいく。
そうして、私は思考を放棄した。
もう何もしなくない。
翌日、アラームがなる前に目を覚ました私は、朝一番にそう思った。何もする気がおきない。
でも、残念ながら今日は大学がある。午後からだけど。
そう考えると、助かったかもしれない。単位のことを考えると休むわけにはいかないし、かといって朝から準備して授業を受けに行く気にもなれない。というか、出来ない。
せめて、午前中に落ち着いていますようにと祈りながら、ベッドから抜け出した。
──最悪だ。
恐怖は全然薄まってはくれなかった。むしろ、大学へ行かねばと思う度に、足がすくんでしまった。
あぁ、やっぱり、この恐怖は消えてはくれないのか。
人はすぐには変われないというが、全くもってその通りだ、と身をもって知る。
それに大学内は当然人が多い。様々な気持ちが入り乱れて吐き気がしそうだ。
嫉妬、妬み、蔑み、優越感、嫌悪──
汚いきたない、あらゆる感情がごちゃごちゃにかき混ぜられて、ぐるぐると回っている。
それらの黒い感情が、人たらしめているのだと、わかってはいるが気持ちが悪い。
酔いそう、吐きそう、死んでしまいそう
歩く速度は遅く、鞄をぎゅっと握りしめ、うつむき加減なおかげか、周りからは陰鬱とした人間に見えているのだろう。
先程から、こちらを見てはひそひそと遠巻きに囁かれているのがよくわかる。心配そうに見てくる者も中にはいるが、話しかけてはこない。
自分が可愛いからだ。
勿論、その気持ちはわかる。私だってそうする。
だが、今は誰かにこの苦しみを理解してもらいたくて仕方がなかった。
だって、今にも泣きそうなんだもの。
──お願い。
誰か
誰か
─私に気づいて─
「雪麗っ!」
そんな、鬱々とした気分でいると、不意に力強く呼ばれた自分の名前にハッとした。
0
お気に入りに追加
134
あなたにおすすめの小説


思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

溺婚
明日葉
恋愛
香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。
以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。
イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。
「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。
何がどうしてこうなった?
平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ホストな彼と別れようとしたお話
下菊みこと
恋愛
ヤンデレ男子に捕まるお話です。
あるいは最終的にお互いに溺れていくお話です。
御都合主義のハッピーエンドのSSです。
小説家になろう様でも投稿しています。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる