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第五話─挨拶─
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あれから結局、幻滅してもらえればいいと思いどうやって幻滅させようかと考えるも策は思いつかず夜になり、考えるのが嫌になった私は行き当たりばったりでもいけるよね、という半ばやけくそのように結論をつけた。
万里や波瑠華、結弦に一度相談してからとも思ったのだが、何となくそんなことをしても意味がないと思い、一人で明堂院 凛翔との決着をつけねばならないという、変な使命感にかられ誰にも頼らず、まったくのノープランで朝を迎えることとなった。
翌朝、目覚た後冷静に考えると、もう一つの言葉しか浮かんでこない。
私よ、お前は馬鹿か
何だ、その使命感は?
昨日の私、どうしてくれんだ。あんたのおかげで今日の私は戦地に向かうような気分で大学へ行かなければならんだろうが。
と、もう絶望しかないような気分で大学へ行き授業を受けた。
自分でも自覚するほど顔面蒼白だったものだから、結弦にそれはそれは物凄い心配された。
「ねぇ、どうしたのよ?大丈夫?死ぬみたいな顔してるわよ」
「あー、大丈夫、ちょっと寝不足なだけ」
「雪麗、貴方、私に何か言ってないことがあるんじゃない?」
流石、結弦の勘の鋭さは侮れない。変に心配させない為にも今日は明堂院先輩とのことは黙っておこう。
もう心配されてるけど。
「んー、言ってないことはあるけど、大したことじゃないから。今日中には解決することだし」
だから心配しないで、と結弦に微笑みかける。
「はぁ、もう、気を使わなくてもいいのに。まぁ、雪麗が言うなら、これ以上は言及しないわ。また、いつでも相談して」
「ありがとう。頼りにしてる」
結弦の優しさが眩しすぎて後ろめたさが募る。別にやましいことをしようとしているわけじゃないから、そう感じる必要も無いのだけど、普段、明堂院とのことで散々迷惑かけているからか、いざピンチに陥ってしまったときに頼ることに躊躇いを感じてしまう。
結弦に癒されて、少し勇気が湧いてきた私はそのままの勢いでノートを第二図書館へ返しに行った。
時刻は午後6時。
今日の講義は遅い時間にあったので必然的にここへ来るのも遅くなる。まだ夏ではないので、空は美しい茜色に染まっている。
無事ノートを元に位置に戻せたが、その後どうすれば良いのかわからない。
このノートを読み切る前の私なら、絶対に待つことなくすぐさまその場を離れただろう。
だが、ノートを読んだ今ならわかる。この場において、その行為は絶対にしてはならない禁忌と同義だ。根拠はないが、直感がそう告げる。ここは、彼が来るまで待っているのが得策だろう。
ぼんやりと、窓から空を見る。
ふと、これまでのことに思いを馳せる。以前の恐怖が嘘のように、今は何も感じない。いや、何も感じていないと思い込んでいるだけかもしれない。感覚が麻痺しているようだ。
ただ、今はそれでいいと思う。
だって、彼を恐れていては、彼と対等な立場で話し合いができない。
そこまで考えて時計を見る。午後7時。いつの間にか1時間も経っていたようだ。このまま待っていてもいいのかと少し不安になる。この第2図書館は午後8時には閉館してしまうので、あまり悠長に待ってはいられないのだ。
今まで、当然のように彼は来ると思い待っていたが、果たして彼は来るのかと疑問に思い始める。
どうしよう、どうしようとぐるぐる悩んでいるとドアが開く音がした。
彼が来たと確信し、安心した気持ちと、これからどうなるのかという不安な気持ちとで複雑な気持ちになる。
自然と背筋がのび、緊張で顔が強ばる。
彼が来る──。
「遅くなってしまい、申し訳ありません。」
ふわりと人のいい笑顔で彼がそう言う。
やはり、ここで待つことが正解だったようだ。それにしても、日記と同じ敬語。文面だから敬語にしたのかとも思っていたが、年下の私にも敬語ということは、彼は誰にでも丁寧な口調で話すのだろう。
「い、いえ。気にしてませんから」
多少震え声になりながらも、想像していたよりはしっかり返事ができた。
「ありがとうございます。さぁ、ここもあと少しで閉まってしまいますから、場所を変えてお話しましょう」
「はい」
どれだけ丁寧に話していても、その内容は私に拒否権がなく、既に定められていたもので。
彼は、取り繕う気は無いのだと感じた。
あぁ、彼は存外強引なのだと思いながら、私は彼の後ろをついて行った──。
万里や波瑠華、結弦に一度相談してからとも思ったのだが、何となくそんなことをしても意味がないと思い、一人で明堂院 凛翔との決着をつけねばならないという、変な使命感にかられ誰にも頼らず、まったくのノープランで朝を迎えることとなった。
翌朝、目覚た後冷静に考えると、もう一つの言葉しか浮かんでこない。
私よ、お前は馬鹿か
何だ、その使命感は?
昨日の私、どうしてくれんだ。あんたのおかげで今日の私は戦地に向かうような気分で大学へ行かなければならんだろうが。
と、もう絶望しかないような気分で大学へ行き授業を受けた。
自分でも自覚するほど顔面蒼白だったものだから、結弦にそれはそれは物凄い心配された。
「ねぇ、どうしたのよ?大丈夫?死ぬみたいな顔してるわよ」
「あー、大丈夫、ちょっと寝不足なだけ」
「雪麗、貴方、私に何か言ってないことがあるんじゃない?」
流石、結弦の勘の鋭さは侮れない。変に心配させない為にも今日は明堂院先輩とのことは黙っておこう。
もう心配されてるけど。
「んー、言ってないことはあるけど、大したことじゃないから。今日中には解決することだし」
だから心配しないで、と結弦に微笑みかける。
「はぁ、もう、気を使わなくてもいいのに。まぁ、雪麗が言うなら、これ以上は言及しないわ。また、いつでも相談して」
「ありがとう。頼りにしてる」
結弦の優しさが眩しすぎて後ろめたさが募る。別にやましいことをしようとしているわけじゃないから、そう感じる必要も無いのだけど、普段、明堂院とのことで散々迷惑かけているからか、いざピンチに陥ってしまったときに頼ることに躊躇いを感じてしまう。
結弦に癒されて、少し勇気が湧いてきた私はそのままの勢いでノートを第二図書館へ返しに行った。
時刻は午後6時。
今日の講義は遅い時間にあったので必然的にここへ来るのも遅くなる。まだ夏ではないので、空は美しい茜色に染まっている。
無事ノートを元に位置に戻せたが、その後どうすれば良いのかわからない。
このノートを読み切る前の私なら、絶対に待つことなくすぐさまその場を離れただろう。
だが、ノートを読んだ今ならわかる。この場において、その行為は絶対にしてはならない禁忌と同義だ。根拠はないが、直感がそう告げる。ここは、彼が来るまで待っているのが得策だろう。
ぼんやりと、窓から空を見る。
ふと、これまでのことに思いを馳せる。以前の恐怖が嘘のように、今は何も感じない。いや、何も感じていないと思い込んでいるだけかもしれない。感覚が麻痺しているようだ。
ただ、今はそれでいいと思う。
だって、彼を恐れていては、彼と対等な立場で話し合いができない。
そこまで考えて時計を見る。午後7時。いつの間にか1時間も経っていたようだ。このまま待っていてもいいのかと少し不安になる。この第2図書館は午後8時には閉館してしまうので、あまり悠長に待ってはいられないのだ。
今まで、当然のように彼は来ると思い待っていたが、果たして彼は来るのかと疑問に思い始める。
どうしよう、どうしようとぐるぐる悩んでいるとドアが開く音がした。
彼が来たと確信し、安心した気持ちと、これからどうなるのかという不安な気持ちとで複雑な気持ちになる。
自然と背筋がのび、緊張で顔が強ばる。
彼が来る──。
「遅くなってしまい、申し訳ありません。」
ふわりと人のいい笑顔で彼がそう言う。
やはり、ここで待つことが正解だったようだ。それにしても、日記と同じ敬語。文面だから敬語にしたのかとも思っていたが、年下の私にも敬語ということは、彼は誰にでも丁寧な口調で話すのだろう。
「い、いえ。気にしてませんから」
多少震え声になりながらも、想像していたよりはしっかり返事ができた。
「ありがとうございます。さぁ、ここもあと少しで閉まってしまいますから、場所を変えてお話しましょう」
「はい」
どれだけ丁寧に話していても、その内容は私に拒否権がなく、既に定められていたもので。
彼は、取り繕う気は無いのだと感じた。
あぁ、彼は存外強引なのだと思いながら、私は彼の後ろをついて行った──。
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