貴方の鳥籠に喜んで囚われる私の話

刹那

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第一話─まだ平和だった頃─

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 今のところ明堂院との接触はない。安心だ。
私が徹底的に避けている成果だ。私、頑張っている。

「あんた、なんでそんなに明堂院さんのことが怖いんだろうねぇ」

 そう言って話しかけたのは、私の親友の辻野 万莉つじの ばんり。黒髪のショートカットで、キリッとした容姿の中性的な美人さんだ。性格はさばさばしており、彼女の話は聞いていてとてもスカッとするものばかりだ。

「そうそう、せつらんがそんなに人のことを怖がってるのって、初めて、だよねぇー?」

 可愛い声で万里に相槌を返すのは、同じく私の親友である倉梨 波瑠華くらなし はるか。茶髪の髪を、肩下までのばし、ハーフアップにまとめている。
美人というよりは、可愛らしい容姿をしている。一見人畜無害そうに見えるが、その実、毒舌家で強かだ。
普段は猫を被っている。本性は、心を開いた人にしか見せないのだそうだ。
 だが、心を開いた相手は絶対に裏切らないと決めているらしく、その点は安心できる。彼女は私を裏切らない。
ちなみに、私のことを「せつらん」という相性で呼ぶ人間は波瑠華だけだ。

 私は、親友二人と、久しぶりに重なった休日を過ごしていた。前から、2人には明堂院のことを相談していたので、今日も心配になった2人が相談にのってくれたのだ。
本当に感謝しかない。
今は波瑠華の家にお邪魔して、まったりしていた。

「そんなことを言われても、怖いものは怖いし。逆に皆がどうして明堂院さんに近づきたがるのかが、私には謎」

 万里と波瑠華に答えながらも、私は明堂院を思い出し、ぶるっと身震いした。

「まぁ、雪麗がそう言うぐらいだから、十分に気をつけた方がいいと思うけどね」

「そうそう!せつらんは洞察力、ハル達より鋭いから。まぁでも、過度に反応しても怪しまれるし、程々にしないとねぇー。」

 私達は、小学生からの付き合いでお互いのことをよく知っている。お互いの信頼は強固なものだ。

 だが、2人とは大学が異なってしまった。

 万里は私立すめらぎ大学の文学部の2年生。

 波瑠華は如月きさらぎファッションデザイン専門学校の2年生。

 2人とも、夢に向かって頑張っているようだ。

 そんな私達の共通点は、2次元大好きなオタクということだ。共通の趣味をもった友人は何にも変えがたい。
私はコミュ障のきらいがあるので、友人はこの2人と大学内の1人、計3人だけだったりする。別に不満はない。人間不信の私にはこれぐらいで十分だ。
 2人は、私の家庭環境のことも合わせて理解してくれている。

 
本当に大切な存在だ。

 私が一人暮らしをしたいということを相談したときにも、親身に話を聞いてくれ、一緒に物件探しを手伝ってくれた。

「ま、こんなつまんない話はやめにして、楽しい話をしよう」

「うんっ!そーいえば、2人は新しく始まったアニメ何見てるのー?」

 そうして、私達はお互いの近況方向や、趣味の話などをして楽しく過ごした。
楽しい時間は早く終わるもので、気がついたら、もう解散となっていた。

───────────────────────

 翌日、私は大学内の友人と昼食をとっていた。

「休日は楽しめた?」

 そう聞くのは、有明 結弦ありあけ ゆずる。私と同じ心理学2年生で、唯一の大学内での友人。彼女もオタクということで親しくなった。

「うん、久しぶりに親友達と過ごせて、割と浮かれてるみたい。今は精神も安定してる。心配しないで」

 彼女も、家庭環境に問題を抱えており、お互いに励まし合う中だ。かつて、父親が愛人をつくり夜逃げし、それからシングルマザーとなったらしい。

 私達がお互いの家庭環境を知るきっかけとなったのは、友人となってからの夏休み前、明堂院を初めて見かけたとき、パニックになった私は、結弦の目の前で意味不明な言葉を発し迷惑をかけたことだ。
 その時の私の異常な様子に何かあると思ったらしい。流石心理学を勉強しているだけはある。
その後に問い詰められ、家庭環境の話をした。
それから、より仲が深まった気がする。
結弦も、沢山の人と関わるような人ではないので、波長があうのだろう。
 結弦と過ごすのは心地がいい。

 結弦も、私ほどではないものの、明堂院には薄気味悪いものを感じており、私の話を疑わないで聞いてくれる貴重な人間だ。

 そして結弦は、精神的に不安定になりやすい私を過剰といえるまでに心配してくれている。申し訳ない。

「そう?2年生に進級したてで、不安定になりやすい時期でしょう?だから心配したのよ。明堂院さんのことだってあるし」

「うん。ごめん。でも、ここには結弦もいるし、明堂院さんとは接点なんてないから。今は安心して過ごせてる」

「なら良かったわ。何かあったら遠慮せずに言うのよ。何でも聞くから」

「ありがとう」

 こんな素敵な親友達に囲まれて、私は本当に幸せだ。
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