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最終章
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しおりを挟む「…うっ……はぁ…っく…」
あふれ出る涙を止める術なんて知らないんだ。
枯れるまで流れてしまうといい。
もう一生泣かなくてすむように。
コンコンッ。
部屋のドアがノックされ、バッと振り返る。
「慶ちゃん…大丈夫?」
「……っ」
「…慶ちゃん?入るよ」
「…ダメ!…大丈夫ですから…」
「入る…からね」
キィッと控えめな音を立てて部屋のドアが開く。
このぐちゃぐちゃな顔を整える暇なんてなくて。
冴香さんは一瞬びっくりしてたみたいだけど、すぐにいつもの穏やかな表情に戻る。
そんな顔で目を合わせることなんかできなくて、ただ僕はうつむいた。
「慶ちゃん…」
「……」
「…慶ちゃん」
何も言わずに正面から僕の事を抱きしめてくれる冴香さん。
彼女の匂いや体温に涙は止まるどころか増えていく。
「うっ…うぇ…うわぁああっ」
「うん、大丈夫。……慶ちゃん、大丈夫だよ」
「ひっ…っく…僕、僕…っ」
「大丈夫…泣いていいんだからね。…大丈夫」
ただ優しく僕の背中をなでるだけ。
そんな冴香さんにしがみついて僕は声を上げて泣いたんだ。
「…落ち着いた…かな?」
「……はい。あの…ごめんなさい」
「あら、なにが?」
「だって僕…こんな年になって…声あげて泣いちゃって…恥ずかしい」
「悲しいときは誰でも泣く。楽しいときは笑う。嫌なことがあれば不機嫌になる。年齢は関係ないでしょ?」
にっこりと僕に向かって笑う冴香さんにまた泣きそうになってしまう。
「…で?」
「え?」
「話したい事、あるのかな?」
「ぁ…僕…」
「話して辛くなるなら話さなくていい。でも話して楽になるなら、私でよかったら話してちょうだい。一応、慶ちゃんのお母さんなんだからね?」
お母さん…
本当にそう思ってくれてるんですね。
「…まだ、時間がいるかしらね。ごめんなさい、急かしたりして。いつでもいいのよ」
そう言って立ち上がり部屋から出て行こうとする冴香さんを僕は呼び止める。
「お…お母さんっ」
「…慶ちゃん……今…」
「聞いて…もらえますか?うまく、話せないと思うけど」
「……もちろんよ」
一つ一つ。
冴香さんに、話した。
玲人のこと。
彼が僕の恋人だったという事。
彼から逃げるためにカナダに行くことを了承したということ。
その彼が今日僕に会いに来たという事。
冴香さんは嫌な顔など一つもせず。
静かに最後まで僕の話を聞いてくれた。
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