306 / 327
最終章
36
しおりを挟むーside 桐生玲人ー
今ここで慶太を帰したら。
もう会ってもらえない様な気がして。
無我夢中だったんだ。
気づいたら慶太のこと抱きしめてて。
暴れて何とか逃れようとする慶太を、絶対に離すものかと抱きしめる腕に力を入れる。
「別れ」
そんな言葉なんか聞きたくなくて。
慶太の唇を。
自分の唇でふさぐ。
パーン!
静寂の中で響く乾いた音。
数秒してからようやく気づく。
自分が叩かれたのだということに。
痛みよりも、ただ、びっくりして。
慶太のことを抱きしめる腕がはらりと下に落ちる。
そして。
目の前の慶太は。
泣いていた。
ポロポロと。
きれいな瞳から頬を伝って涙が地面に落ちる。
「バカにしないでよ。なんで…なんでこんなことするのさ!」
「……」
「なんで…来たり、するの?…なん…で…っ」
「俺…」
「今更…でしょ?…っく…」
「……分かってる…けど、それでも、会いたかったんだ」
「も…止めて…よ。…ひっ……」
「慶太…好きなんだ。お前が…いないと俺…」
「だったらなんで!…なんで、僕以外を抱いたりしたの?」
「…」
「なんで浮気ばっかりしたんだよ!…話、聞いて欲しかった。抱きしめて欲しかったのに……笑って欲しかった…僕だけに…」
「……慶太」
「君は僕を見てくれなかった!」
「見てた…見てたよ、俺…」
「うそつき。……もうお願いだから、僕のことはほっといてよ」
そう叫んで走り去る慶太を。
止めることなんて。
俺にはできなかった。
いつも慶太の本音を知りたいと思ってたんだ。
なんで言わないんだ。
素直にぶつければいいって。
俺の事愛してる証拠見せろよって。
初めて聞いた。
ずっとあいつの中にたまってたもの。
俺は今まで慶太があんな声出したところ見た事ない。
あんなにひどく泣いたところも。
あれだけ望んでたはずの本音なのに。
少しも嬉しくないんだ。
あれは俺への愛の証拠なんかじゃない。
俺がどれだけあいつの事を傷つけてきたか。
その証拠なんだ。
たまらなく痛い。
91
お気に入りに追加
242
あなたにおすすめの小説
友人とその恋人の浮気現場に遭遇した話
蜂蜜
BL
主人公は浮気される受の『友人』です。
終始彼の視点で話が進みます。
浮気攻×健気受(ただし、何回浮気されても好きだから離れられないと言う種類の『健気』では ありません)→受の友人である主人公総受になります。
※誰とも関係はほぼ進展しません。
※pixivにて公開している物と同内容です。
君が僕を見つけるまで。
いちの瀬
BL
どんな理由があっても、僕はもうここを去るよ。
2人の思い出が詰まったこの家を。
でもこれだけは信じてくれるかな。
僕が愛してたのは君だけだ。ってこと。
浮気攻め×健気受け なのかなぁ?もう作者にも結末、cpわかりませんw
浮気されてもそばにいたいと頑張ったけど限界でした
雨宮里玖
BL
大学の飲み会から帰宅したら、ルームシェアしている恋人の遠堂の部屋から聞こえる艶かしい声。これは浮気だと思ったが、遠堂に捨てられるまでは一緒にいたいと紀平はその行為に目をつぶる——。
遠堂(21)大学生。紀平と同級生。幼馴染。
紀平(20)大学生。
宮内(21)紀平の大学の同級生。
環 (22)遠堂のバイト先の友人。
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。
全17話、約6万文字。
【doll】僕らの記念日に本命と浮気なんてしないでよ
月夜の晩に
BL
平凡な主人公には、不釣り合いなカッコいい彼氏がいた。
しかしある時、彼氏が過去に付き合えなかった地元の本命の身代わりとして、自分は選ばれただけだったと知る。
それでも良いと言い聞かせていたのに、本命の子が浪人を経て上京・彼氏を頼る様になって…
生まれ変わりは嫌われ者
青ムギ
BL
無数の矢が俺の体に突き刺さる。
「ケイラ…っ!!」
王子(グレン)の悲痛な声に胸が痛む。口から大量の血が噴きその場に倒れ込む。意識が朦朧とする中、王子に最後の別れを告げる。
「グレン……。愛してる。」
「あぁ。俺も愛してるケイラ。」
壊れ物を大切に包み込むような動作のキス。
━━━━━━━━━━━━━━━
あの時のグレン王子はとても優しく、名前を持たなかった俺にかっこいい名前をつけてくれた。いっぱい話しをしてくれた。一緒に寝たりもした。
なのにー、
運命というのは時に残酷なものだ。
俺は王子を……グレンを愛しているのに、貴方は俺を嫌い他の人を見ている。
一途に慕い続けてきたこの気持ちは諦めきれない。
★表紙のイラストは、Picrew様の[見上げる男子]ぐんま様からお借りしました。ありがとうございます!
その部屋に残るのは、甘い香りだけ。
ロウバイ
BL
愛を思い出した攻めと愛を諦めた受けです。
同じ大学に通う、ひょんなことから言葉を交わすようになったハジメとシュウ。
仲はどんどん深まり、シュウからの告白を皮切りに同棲するほどにまで関係は進展するが、男女の恋愛とは違い明確な「ゴール」のない二人の関係は、失速していく。
一人家で二人の関係を見つめ悩み続けるシュウとは対照的に、ハジメは毎晩夜の街に出かけ二人の関係から目を背けてしまう…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる