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最終章

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会ってどうするのか。

何がしたいのか。

俺の言いたい事。

それを目の前の男に告げる。


そしてその後に訪れる少しばかりの静寂。

男は「はぁ」とため息を一つついてから話し出した。


「それだけ?」

「…どういう意味ですか?」

「言いたい事はそれだけなのかってこと」


「それだけ」

自分にとってこれは「それだけ」なんかじゃない。


「あっそ。それだけならいいわ。俺が伝えとくよ、ケイに」

「いや!俺が自分の口から…」

「その程度なのにわざわざお前に会わせる必要ねぇだろ。ちゃんと俺が言うからさ。…じゃ、そういう事で」


吐き捨てるようにそう言って、男はすたすたと去っていこうとする。


「ちょっと、待ってください!自分で言いたいんです。俺が直接…」

「何のために?自己満足か?」

「それは…」

「言いたい事言って、罪悪感から解き放たれてすっきりしたいのか?」

「…そうじゃ、ないです」

「ま、どっちでもいいわ。俺から伝えとくし、俺が幸せにしてやるよ。お前が望むようにな」


足を止めて笑みを浮かべながらそう言った。

勝ち誇った笑顔だ。


「確かにあいつには幸せになる権利があるよ。だから俺が幸せにしてやる。お前ができなかった分もな」

「………」

「じゃ、俺もう帰っていい?あいつ、メシ作って待ってんだよ」

「…メシ…」

「あぁ、今日は確か中華とか言ってたかな。ケイの作るメシうまいよな。外食なんかできないぜ」

「中華…」


俺の好きなもの。

慶太の作る中華。

こいつも食べてんのか?


「ま、そのあとは二人で風呂でも入って?いちゃいちゃラブラブしますかねー」

「……まれ…」

「あいつも照れた顔、マジで、そそられるよなぁ。すっげぇ、かわいいし」

「…って…んだろ」

「特にセックスのときとか、やば過ぎだろ、あの声。もう下半身に来るって言うの?」

「だまれっつってんだろ!」


べらべらと余計な事ばかりしゃべり倒すこいつに耐えられず襟元を締め上げるように掴んだ。


「うるせぇんだよ。…お前がいちいち言わなくてもな、知ってんだよ」


知ってんだよ。

どれだけあいつの飯がうまいかも。

あいつの照れた顔がどれだけかわいいかも。 

すねた顔も、むくれた顔も、うれしそうな顔も、全部全部。

声だって身体だって何もかも。


「お前なんかよりもずっと知ってんだよ!」

「……」

「知ってんの、慶太の癖。ウソつくとき右眉が上がるんだよ。」

「……」

「あいつが本当に嬉しいとき、楽しいとき、俺の膝を触る癖知ってんのか?」

「……お前…」

「セックスのとき、恥ずかしくて声出さないように手の甲口に当てるのだって。全部全部…知ってんだよ」


そう知ってるんだ。

あいつのこと、一番俺が知ってんだよ。


忘れる事なんて…

出来ない。


「知ってんだ…俺が…お前なんかじゃなくて…俺が。

会いてぇんだ、慶太に。

どうしようもなく、会いてぇ。

抱きしめたい。

キスをしたい。

愛してるんだと伝えたい。」


ウソだよ。

他のやつに幸せにしてもらえなんて。

そんなの想像しただけで耐えられねぇ。


お前を幸せにしたいのは俺なんだ。

笑ってて欲しいのは俺のそばでなんだよ。


慶太に。

こんなにも会いたい。
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