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最終章
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しおりを挟むーside 桐生玲人ー
一ヶ月。
何の進展もないまま一ヶ月が過ぎた。
慶太に会うまで。
それまでは、絶対に何があっても諦めない。
そう決めてはいるものの。
それでも不安は募るものだ。
あいつは慶太に会わせてくれるのだろうか。
慶太に俺がこうして待ってると言う事を伝えてくれているのだろうか。
それとも何もない振りをして慶太に笑いかけているのだろうか。
ちらりと腕時計に目をやる。
時計の針は午後八時を指している。
この時間まで来なければ今日はもう無理だろう。
俺は伝票を持って席を立った。
「ありがとうございました」
「……ども」
初夏から夏に向かうこの時期。
夜八時と言えどまだ少しだけ明るい。
ウィン、と開いた自動ドアから一歩外に出て。
そして家に帰ろうと歩き出した。
「…おい」
聞き覚えのある声に思わずバッと勢いよく振り返る。
あの男がいた。
右手で軽く髪をかき上げながら。
仁王立ちとまではいかないけれど。
それでもやはり機嫌はよくなく俺の事をにらみつけている。
この男がここにいるってことはもしかして…
そう思って辺りをキョロキョロと見回した。
「ケイはいねぇよ」
「…そうっすか」
ま、だろうな。
「ここまでお前が粘り強く待ち続けるとは思わなかったよ。仕方ない、ケイに会わせてやるよ」
なんて、簡単にいくわけない。
でもやはり少し落胆。
「お前さぁ…」
「…はぁ?」
「お前何やってるわけ、こんなところで」
何って……いや、分かるだろ。
「慶太のこと…待って…」
「ふぅん。で、待ってどうするわけ?」
「…どうす…る…?」
「会ってどうすんのかって聞いてんだけど」
威圧的な感じで聞いてくる。
まるで答えないなんてことは許さないかのように。
おれのことを射抜くような視線。
それにせかされるように俺は口を開く。
慶太に会って。
そして、それから俺は…。
「ただ一言、あいつに言いたいんです。
ごめん、と。
それから、幸せになって欲しい。幸せにしてもらえ、慶太にはその権利があるんだと」
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