上 下
288 / 303
最終章

18

しおりを挟む

ーside 桐生玲人ー


一ヶ月。

何の進展もないまま一ヶ月が過ぎた。

慶太に会うまで。

それまでは、絶対に何があっても諦めない。


そう決めてはいるものの。

それでも不安は募るものだ。


あいつは慶太に会わせてくれるのだろうか。

慶太に俺がこうして待ってると言う事を伝えてくれているのだろうか。

それとも何もない振りをして慶太に笑いかけているのだろうか。


ちらりと腕時計に目をやる。

時計の針は午後八時を指している。

この時間まで来なければ今日はもう無理だろう。

俺は伝票を持って席を立った。


「ありがとうございました」

「……ども」


初夏から夏に向かうこの時期。

夜八時と言えどまだ少しだけ明るい。


ウィン、と開いた自動ドアから一歩外に出て。

そして家に帰ろうと歩き出した。



「…おい」

聞き覚えのある声に思わずバッと勢いよく振り返る。


あの男がいた。

右手で軽く髪をかき上げながら。

仁王立ちとまではいかないけれど。

それでもやはり機嫌はよくなく俺の事をにらみつけている。


この男がここにいるってことはもしかして…

そう思って辺りをキョロキョロと見回した。


「ケイはいねぇよ」

「…そうっすか」


ま、だろうな。

「ここまでお前が粘り強く待ち続けるとは思わなかったよ。仕方ない、ケイに会わせてやるよ」

なんて、簡単にいくわけない。

でもやはり少し落胆。


「お前さぁ…」

「…はぁ?」

「お前何やってるわけ、こんなところで」


何って……いや、分かるだろ。


「慶太のこと…待って…」

「ふぅん。で、待ってどうするわけ?」

「…どうす…る…?」

「会ってどうすんのかって聞いてんだけど」


威圧的な感じで聞いてくる。

まるで答えないなんてことは許さないかのように。

おれのことを射抜くような視線。

それにせかされるように俺は口を開く。


慶太に会って。

そして、それから俺は…。


「ただ一言、あいつに言いたいんです。

ごめん、と。

それから、幸せになって欲しい。幸せにしてもらえ、慶太にはその権利があるんだと」


しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

僕は貴方の為に消えたいと願いながらも…

BL / 連載中 24h.ポイント:213pt お気に入り:1,785

ちびっ子ボディのチート令嬢は辺境で幸せを掴む

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:6,959pt お気に入り:1,126

充実した人生の送り方 ~妹よ、俺は今異世界に居ます~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,428pt お気に入り:209

スピーディーにマニアック

BL / 連載中 24h.ポイント:71pt お気に入り:119

立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~

恋愛 / 完結 24h.ポイント:631pt お気に入り:4,515

ハコ入りオメガの結婚

BL / 完結 24h.ポイント:85pt お気に入り:1,276

悪役令息レイナルド・リモナの華麗なる退場

BL / 連載中 24h.ポイント:21,173pt お気に入り:7,335

典型的な政略結婚をした俺のその後。

BL / 連載中 24h.ポイント:326pt お気に入り:2,112

処理中です...