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最終章
13
しおりを挟むーside 佐倉伊織ー
「あの…ちょっといいですか?」
それを言ったであろう男が今俺の目の前に立っている。
身長も俺とあまり変わらず。
男臭くはなくて女受けしそうな顔をしている。
どこかで会った事があるのだろうか。
なんとなく知っているような気はするものの。
いくら記憶をたどっても何も出てはこない。
それともただのキャッチだろうか。
「…あ、俺、急いでるんで」
そう言って、また背を向ける。
こんなのにかまってる時間はない。
でも次の瞬間、俺は足を止めることになる。
「あ!…俺…桐生玲人と言います」
桐生玲人…。
玲人。
なるほど。どうりでね。
会ったことはない。
けれどいつも聞いていた。
だから知ってるような気がしたのか。
ゆっくりと振り返る。
そしてもう一度そいつの顔を真正面から確かめた。
桐生玲人。
ケイの愛した男。
俺が欲しくて仕方がなかったポジションにいつも居た男。
ケイを裏切り続けた男。
俺が憎むべき相手。
初めての対峙。
想像していたやつと意外と近い。
「……なにか?」
発した声は初対面の人間に出すようなものではなく。
明らかに怒りと拒絶を含む。
きっとこいつもそれが分かったんだろう。
一瞬眉がピクリと動く。
でも物怖じをしている様子はない。
「いきなりで…申し訳ないと思ってます」
「…別に。俺が聞きたいのはなんか用かってことだけど」
「俺のこと…知ってるみたいですね」
「………あぁ。多少はな。ケイから聞いてるよ」
ケイの名前を出したとき。
「桐生玲人」は目を見開く。
その目には、俺に対する嫉妬心が明らかに宿っていた。
けれど気づかないふりをする。
「で?」
「……」
「俺、用事がないなら帰るけど」
用事。
そんなのこいつが誰なのか知った瞬間に分かってたよ。
だってそうだろ?
そんなのこれ以外にあるわけがない。
「慶太に…会わせてください」
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