僕は本当に幸せでした〜刹那の向こう 君と過ごした日々〜

最終章

10

翌日。

俺の行動は早かった。


慶太に会いたい。

会って直接伝えたい事がある。

一度決断してしまえば後は行動するだけ。


今、俺はT大の前にいる。

手にはあの日記を握り締めて。


この日記を慶太に返して。

そして言うんだ。

「幸せになって欲しい。」と。


本当は俺がそうしてやりたかった。

けれど。

俺は自分が楽になることばかり考えてた。

自分の「幸せ」ばかりを望んでいた。

結果その「幸せ」も消えていった。


今、俺に「お前を幸せにしたい」なんて言うことは出来ない。

そんな資格なんてない。

だったら、せめて。

お前の幸せを願う事くらいは許して欲しい。


すぅ、っと。

一度深呼吸をしてから大学へ足を踏み込んだ。




「は？」

「いや、だから…水野慶太という学生はここにはおりません」

「そんなわけ…。水野慶太です。生物学部で、今年の四月から大学院に進んでるはずなんですけど」

「……ですが、名簿を調べましても、そのようなお名前は…」



どういうことだ？

ここにいないなんて。

だって、あいつは大学院に進むはずで。

まだ研究がしたいって。


日記を持つ右手に力が入る。

なんで？

何があった？

どうしていない？

なぜ、会えない？


言えないのか？

この最後の思いでさえ。


大学にいないんじゃ他にどうやって慶太に会えるんだよ？


いや、一つだけ。

一つだけ方法があるかもしれない。

というよりも可能性の問題だ。


この大学以外で慶太にたどり着く方法。


それは。

あのファミレス。

あの男。


俺に残された最後の道。

あの男を探す事。

あの場所に通えば、「男」を見つけることが出来るかもしれない。


一番会いたくない男を捜して。

一番会いたい人に出会う。


それが俺に残された最後の手立て。