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最終章
6
しおりを挟むーside 桐生玲人ー
「ただいま………あぁ、またか」
ばたりとドアが閉まる音を背中で受けながら。
一人ごちるようにつぶやいた。
真っ暗な部屋に灯りをともす。
上着を脱ぎ、ソファに座って。
はぁ、っと一息ついた。
四年以上もこの部屋に住んでるんだよな。
ぐるりと辺りを見回す。
初めてあいつをこの部屋に連れてきたとき。
めちゃくちゃびっくりしてたんだよな。
「大きすぎるよ!」とか言ってたっけ。
でも。
きょろきょろと部屋のどこもかしこも。
口元を緩めて見て回る慶太は。
すごく嬉しそうだった。
家具も二人で見に行ったんだ。
「このソファ良くね?」
「んー……ちょっと高すぎだよ」
「…いいじゃん、別に、これくらい」
「だめ!買うのはソファだけじゃないんだからね」
「へぇへぇ」
「…あ!ねぇ、あれは?」
指差した先には薄いブラウンの二人がけ用のソファ。
それ目掛けて駆けてって。触って座って。
目、キラキラさせて俺を呼んだよな。
もう、その時点でそれを買おうと思ったよ。
ソファが、家に届いて。二人でそれに座ったとき。
お前、「ありがとう」って俺に言ったんだ。
俺の帰りを待ってそのソファで毛布引っ掛けて眠ってるお前を見つけたとき。
起きたお前は目をこすって寝ぼけながら俺に尋ねた。
「ン……玲人、お帰りなさい。いつ帰ってたの?」
「五分くらい前かな。」
その時はそう言ったけど。
本当はな、一時間くらいお前の寝顔見てたんだ。
そのソファ。
今は俺は一人で使ってるよ。
引越しをしようと決めた。
あまりに思い出が多すぎる。
こうやって一つ一つ。
全てが鮮明によみがえる。
あの時はこうだった。
このとき慶太は…なんて。
まだそれを懐かしむ事が俺には出来ないんだ。
だから、俺はここを出ていくよ。
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