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大学生編
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しおりを挟む「……ン…」
重い瞼をなんとか開けて、目をこしこしと手の甲で擦った。
「…玲人?」
口から出た声は自分でも驚くほどかすれている。
喉もガラガラして。
そして何より、水が欲しい。
僕がそう思う事がわかっていたのか、手の届く範囲に水の入ったペットボトルが置かれていた。
上半身を少し起こしてそれに手を伸ばす。
「痛っ!」
腰から下がありえないほどだるくて、ずきずきと痛む。
昨日の事が夢ではなかったと言う証拠。
水を一気に飲み干し、それでも足りなくて痛む身体を引きずり部屋を出た。
「……玲人…いないの?…玲人?」
何度呼んでも返事はない。
冷蔵庫までなんとか行き着き、中から別のペットボトルを取り出すとまた一気に喉に流し込む。
少しだけ満たされた気がして、次に気になったのは時間。
(今何時だろう?)
電子レンジに表示された時刻では。
……1:02pm
せっかくの誕生日なのに。
もう半日以上が過ぎてしまっていた。
それも玲人がいない今、意味がないのだけど。
買い物にでもいってるのだろうか。
だったらその間に…と。
もう一度冷蔵庫をあけ、昨日昼間に買っておいた食材を取り出す。
玲人が戻るまでに少しでも料理を作っておこう。
何を作るかはもう決めてるんだ。
お願いされてはずっと断り続けてたもの。
僕の作るものの中で玲人が一番好きなのは…中華だ。
この日は絶対に中華にしようと決めていた。
まな板を敷いて材料をテーブルに並べいざ料理開始。
身体がうまく動かなくていつもの半分以下のスピード。
それでも手を休めることなく僕は料理に没頭した。
「うん。……終わり…かな?」
とりあえず僕が作れるものは全部作った…と思う。
酢豚、エビチリ、チンジャオロースに、回鍋肉。
絶対に食べきれないってほどの量。
あまったら冷凍すればいい。
玲人がお腹が減ったときにすぐ食べられるように。
もう一度時計に目をやると五時半近くになってる。
この料理を作るのに四時間以上かかってしまった。
その間…玲人は一度も戻ってはこなかった。
大丈夫。
まだ終わってない。
日付が変わるまで。
僕の誕生日は終わらない。
五分前でもいい。
帰ってきてくれたら。
冷めてしまってるであろう料理を温めて。
それでも二人しておいしいね、と。
一緒にご飯を食べられたのなら。
それで僕は十分なんだ。
そんな思いは、むなしいだけの結末を迎えてしまうのだけれど。
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