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大学生編
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しおりを挟む-Side 桐生玲人-
慶太を信じてみようと。
信じようと思ったんだ。
だから、今日あいつが出かけるっていっても行かせようと。
そう思ったはずなのに。
なんで俺は今こうして走ってんだろう。
こんなにも息を切らして、なんであのファミレスに向かってんだ?
慶太のことを信じてないから。
違う。
慶太が会ってんのは友達じゃないと思ってるから。
違う。
あの男だって思ってるから。
違う!
まばらな人ごみの間を走りぬけ、俺はその場所へとたどり着いた。
離れたところからなんて確かめられなくてずかずかとファミレスの中へと入っていく。
「いらっしゃいませ、お一人様ですか?」
近づいてきた店員を完全に無視して中に入り込む。
この前のあの一番奥の窓際の席。
そこに座ってたのは、あの二人じゃない高校生らしき学生たち。
それでも隅々まで探しまくる。
一席一席。
でもどこを探しても慶太とあの男はいなかった。
店を出て、道路沿いを今度はのろのろと歩く。
いなかった…
じゃあ、慶太はあの男と会ってはいないのか。
本当に友達かもしれない。
信じると言ったのに。
本当に何やってんだよ俺は。
タクシーでも拾って帰るかと、通り沿いで立ち止まる。
ふと目を向けたんだ。
小さめのわき道に。
何か、感じるものがあったとかそんなんじゃなくて。
本当にただふと、そっちに目を向けた。
そしてその先にいたのは。
俺が今まで探し回ってたあの二人だった。
今度は先ほどとは逆に足が地面から離れない。
動けない。
慶太が泣いてたから。
あいつほど泣かないやつはいないと思う。
そんなあいつが、泣いてたんだ。
少し興奮してるみたいで。
ひたすら男に向かって何かを言っている。
その時、男は慶太を抱きしめた。
大切そうに。
でもしっかりと、力強く。
そして。
二人が一度離れて。
互いを見つめ合って。
ゆっくりと。
スローモーションのように。
近づいて。
重なり合った。
慶太は。
避けもせずに。
あの男と。
キスをしていた。
ふらりと、二、三歩後ずさる。
いつの間にか二人はまた離れていて。
男は慶太の顔に手をやる。
涙を拭うかのように。
それはまるで映画の1シーン。
そして二人はお互いを見つめて微笑みあう。
信じていたのに。
いや、信じていたかった。
慶太が浮気をするなんて。
思ってもいなかった。
俺の中でガラガラと何かが音を立てて崩れる。
今考えている事は一つ。
早くこの場を去りたい。
ただそれだけだった。
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