僕は本当に幸せでした〜刹那の向こう 君と過ごした日々〜

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大学生編

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僕はあの日から自分への約束の通り毎日玲人の好きなものを作る。

もちろん栄養配分は考えて偏らないようにだけど。

それは玲人のリクエストだったり。

今までの玲人のリアクションから好きだと思われるものだったり。


バイトもやめた。

もう必要なくなるから。


佐倉さんと会うこともなくなって。

帰りも早くなって。

僕がご飯を作ってたら玲人も帰ってきて。

玲人は僕の横に立って料理が出来るのを見たり。

たまに横槍を入れられることもあるんだけど。


そういえばここで暮らし始めたとき。

あの時もこうだったな。

始まりと同じ、終わり。

僕の誕生日まであと一週間だ。


「あー、旨かった。つか食いすぎた俺」

「だって僕の分も食べたじゃない」

「いや、旨かったんだもん」

「だもん、って。玲人が言ってもかわいくないよ」

「それ、けっこうひどくね?」

「ほんとだもん」

「だもん…真似すんなよ」

「してないもーん!ふふっ」

「してんじゃん…ばーか」


笑いながら僕は空になった皿を重ねる。

あれだけたくさんあったはずの料理は見事になくなっていた。


「慶太。いいよ、俺やる」

「え…でも」

「いいから」


僕の手から皿を奪って今度は玲人が片付けだす。


「じゃ、ありがと」

「…別に」

「でも、割らないでね?」

「割るかよ」


片方の眉を下げて。

なんか苦笑いみたい。


あ!また一つ新しい表情だ。

心の中に新しい写真が一枚増える。

そして僕の目線はリビングにある小棚の上。

そこには写真たてが一つある。

僕が持ってるたったひとつの写真たて。

飾られてる写真はもう何年前のものなのか。

今よりもずっと若い、僕と玲人と、そしてあっちゃん。

あっちゃんが誕生日プレゼントにくれたんだよね。


ねぇ、あっちゃん。

玲人と別れること。

今度はあっちゃんにも言えなかったよ。

それに、あっちゃんにも『さよなら』言わずに行く事になるかもしれない。

ごめんね。


あっちゃん。

あっちゃんの言った様に僕らの写真をたくさん残す事はできなかった。

でも僕の心の中は、紙にはならないたくさんの『写真』で溢れているよ。


「おい、皿洗い終わったんだけど」

「あ、ほんと?ありがと」

「何、見てた?…あの写真?」

「あー、うん。なんか懐かしいよね」

「だな。敦のやつ、バカ面だし」

「ほらそうやって!…僕大好きだよ、この写真」

「……今度」

「ん?」

「今度、敦も一緒にメシ食うか」

「ぁ……うん、そうだね」

「あいつ絶対ウザイくらいにはしゃぐぞ。……やっぱ止めっかな」


きっと楽しいね。

あっちゃんもいっぱい食べてくれて。

玲人はそれをちょっとだけ目をしかめて見て。

僕はそんな二人を見て笑って。

きっとすごく楽しい。


でも。

もうそんな日は来ないと分かってるんだ。

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