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大学生編
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しおりを挟むーside 水野慶太ー
「それじゃ、ここで」
「…あぁ。二十八日、忘れんなよ。」
「分かってます!…それじゃ」
「あぁ、じゃあ」
今日も送ると言ってくれた佐倉さんの申し出を断って僕らはその場で別れた。
今日はなんとなく一人で歩きたい気分だったから。
僕、言ったんだなぁ、佐倉さんに。
明日からこの時間は一人なんだと実感する。
毎日会っていたものだから、なんかぽっかり心に穴が開いたような気分。
けれど、これが僕の選んだ事。
(愚痴愚痴言うのは止め!)
僕に残された時間は少ないんだ。
だったらせめて。
出来る限りの時間を玲人と過ごしたい。
なんかそう思い出したら急に歩調が速くなる。
普通に歩いてたのが早歩きになって。
小走りになって。
そして駆け出した。
玲人に。
玲人に会いたい。
マンションに着いたころには息は完全に上がっていて。
エレベーターの中で必死に整えようとする。
玄関の鍵も急いで開けて。
中は明かりがついて、上がり口には玲人の靴。
(もう帰ってるんだ。)
僕の自分の靴を脱ぎ捨ててリビングに向かった。
「玲人……ただいま」
「あ、おかえり慶太」
「お腹空いてる?」
「おぅ、すっげえ減ってる」
「良かった。今日ね、鯵の南蛮漬けなんだよ。昨日から漬け込んでるからおいしいと思うんだ」
「…知ってる。冷蔵庫開けたら入ってたから」
「え?もしかして食べた?もう!一晩置いたほうがおいしいのに」
「ははっ…そう言われると思って、我慢しといた」
冷蔵庫を開けて確かめると確かに減ってない。
「ほんとだ!これつまみにお酒飲む?」
「飲む!」
「うん、じゃあ他のもすぐ作っちゃうね」
「あぁ、頼む」
「その代わり玲人は風呂掃除ね」
「は?マジで?」
「マジ!じゃないとご飯なしだよ」
「……分かったよ」
ちょっと拗ねたような感じで僕の事を見る玲人。
普段は格好つけてて大人ぶってるくせに。
こんな表情すると、すっごい子供なんだから。
あと二週間。
玲人のもっといろんな表情が見たい。
笑った玲人。
拗ねた玲人。
イジワルな玲人。
泣きそうな玲人。
この際怒った玲人でもいいや。
いろんな玲人を。
心に閉じ込めておきたい。
「ね、玲人」
「…なに?」
「ほら、拗ねないでよ」
「拗ねてねぇし」
「はいはい。ね、明日。明日はなに食べたい?」
「明日って…。まだ今日の夕飯も食ってねぇけど?」
「それは言わないの!食べたいのとか、ある?」
「……肉」
「肉って。…具体的に言って」
「じゃあ、牛タンシチュー。肉すっげやわらかくなるまで煮込んだやつ」
「それ…前にめちゃくちゃ時間かかったやつじゃん」
「お前が言えっつたんだろ?」
「そうだけど……分かった。明日はそれにする」
「は?マジ?」
「うん。だから…だから、早く帰ってきてね?」
「分かった。あれ旨かったんだよな。楽しみ」
これから毎日。
君の食べたいものを作ってあげよう。
君がおいしいと思うものを食べさせてあげよう。
僕がいなくなった後。
その味くらいは覚えててくれるよね?
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