僕は本当に幸せでした〜刹那の向こう 君と過ごした日々〜

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大学生編

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「その時は、もちろん絶対に着いてなんかいかないと思ってました。」

「……」

「だって、都合よすぎるでしょ?今更何言ってんだって…」

「でも…今は?」

「……行こうと思ってます」

「何もそんなに…そんな遠くに行く事は…ねぇだろ。カナダなんて…遠すぎるだろ」

「ですね…ヘヘッ…けど、離れても会っちゃったら意味がないんですよ」

「ケイ…」

「別れても、もし街中で会ったら僕はまた求めずにはいられなくなる。…また、あの手をつかみたくなるんですよ、絶対に」


一瞬でも目が会ったら、また僕はとらわれてしまう。

そして逃げ出せなくなるから。


「だから……カナダだったら会わないでしょ?ふふ」

「……」

「それに…会ったんですよ、その父の相手に」


数日後、大学を出たところを急に呼び止められたんだ。

背が小さくてかわいらしい感じの女の人が立ってた。

知らない人だし警戒しまくりだった僕にずんずん近寄ってきていきなり抱きしめられた。


「なんか急に手引っ張られて近くの喫茶店に連れ込まれて。彼女、一人でしゃべってました」

「……そんなイメージ…」

「ないですよね?僕もでした。僕が入る暇ないくらいずっとしゃべってて、『あの人この前しょぼくれて帰ってきた』とか『あんな図体でかいくせに意外とへたれてんのよねぇ』とか」

「へぇ…なんか…面白いな。…って悪い。お前はそう思えないよな」

「ううん。思えたんですよ、なんか不思議だけど。すっごい勢いあって、俺の学部聞くなりカナダの大学のパンフレット持ってきて『大学院ならあっちでもいけるでしょ?ほら、選び放題!ね?』とか言うんですよ」

「ははっ」

「僕……進路の事決めるときも何かするときもいつも一人だったから。だから……他人なのに。なんか…」

「あぁ」

「変ですよね。父の事は正直今でも信じられないんですよ。なのに…他人のあの人はなぜか信じられるんです」

「そうか。…じゃあ、行って大丈夫なんだな?」

「はい。…昨日電話してその事言ったら電話口で叫ばれましたよ。耳痛くなりました」

「そうか」

「はい」

「いつなんだ、出発?」

「三十日です」


そう。

僕の誕生日の次の日。

最後の最後まで女々しいけれど、でも僕の最後の日は玲人と過ごしたかった。

だから、お願いしたんだ。


「……俺は、寂しくなるな」

「佐倉さん……僕、あの…」

「で、今日が最後なのか?もう俺とは会ってもらえないのか?」

「……はい。ごめんなさい」

「俺が気にするなと言っても、ダメなんだろ?」

「……」

「そっか」

「佐倉さん、あなたと出会えて、こうして毎日会って話して、本当に楽しかった。救われました。だから……ありがとう。本当にありがとうございます」


そう言ったとき。

僕はただ。


ただ笑っていた。


「そうか。…そんな笑顔見られただけでもよしとしないといけないのかね」

「え?」

「ま、いいや。ただ感謝してくれてるならさ、最後に一個お願い」

「はい」

「二十九日とは言わねぇよ。誕生日だし、俺じゃなくて別のやつといたいだろ?だからさ、二十八日に最後にもう一度だけ会って欲しい」

「それは…」

「拒否権はなし!送別会…やってやるよ。俺ら二人だけだけどな」


ふっ、と笑う佐倉さん。

ここでもう一度思った。

佐倉さん、やっぱり僕は幸せ者ですね。

あなたに出会えて。

だから、僕ももう一度笑って。


「はい…楽しみにしてます。僕、いっぱい食べますよ!」

「分かってるっつーの。まかしとけ」


佐倉さん。

ありがとう。


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