僕は本当に幸せでした〜刹那の向こう 君と過ごした日々〜

エル

文字の大きさ
上 下
251 / 327
大学生編

75

しおりを挟む


「その時は、もちろん絶対に着いてなんかいかないと思ってました。」

「……」

「だって、都合よすぎるでしょ?今更何言ってんだって…」

「でも…今は?」

「……行こうと思ってます」

「何もそんなに…そんな遠くに行く事は…ねぇだろ。カナダなんて…遠すぎるだろ」

「ですね…ヘヘッ…けど、離れても会っちゃったら意味がないんですよ」

「ケイ…」

「別れても、もし街中で会ったら僕はまた求めずにはいられなくなる。…また、あの手をつかみたくなるんですよ、絶対に」


一瞬でも目が会ったら、また僕はとらわれてしまう。

そして逃げ出せなくなるから。


「だから……カナダだったら会わないでしょ?ふふ」

「……」

「それに…会ったんですよ、その父の相手に」


数日後、大学を出たところを急に呼び止められたんだ。

背が小さくてかわいらしい感じの女の人が立ってた。

知らない人だし警戒しまくりだった僕にずんずん近寄ってきていきなり抱きしめられた。


「なんか急に手引っ張られて近くの喫茶店に連れ込まれて。彼女、一人でしゃべってました」

「……そんなイメージ…」

「ないですよね?僕もでした。僕が入る暇ないくらいずっとしゃべってて、『あの人この前しょぼくれて帰ってきた』とか『あんな図体でかいくせに意外とへたれてんのよねぇ』とか」

「へぇ…なんか…面白いな。…って悪い。お前はそう思えないよな」

「ううん。思えたんですよ、なんか不思議だけど。すっごい勢いあって、俺の学部聞くなりカナダの大学のパンフレット持ってきて『大学院ならあっちでもいけるでしょ?ほら、選び放題!ね?』とか言うんですよ」

「ははっ」

「僕……進路の事決めるときも何かするときもいつも一人だったから。だから……他人なのに。なんか…」

「あぁ」

「変ですよね。父の事は正直今でも信じられないんですよ。なのに…他人のあの人はなぜか信じられるんです」

「そうか。…じゃあ、行って大丈夫なんだな?」

「はい。…昨日電話してその事言ったら電話口で叫ばれましたよ。耳痛くなりました」

「そうか」

「はい」

「いつなんだ、出発?」

「三十日です」


そう。

僕の誕生日の次の日。

最後の最後まで女々しいけれど、でも僕の最後の日は玲人と過ごしたかった。

だから、お願いしたんだ。


「……俺は、寂しくなるな」

「佐倉さん……僕、あの…」

「で、今日が最後なのか?もう俺とは会ってもらえないのか?」

「……はい。ごめんなさい」

「俺が気にするなと言っても、ダメなんだろ?」

「……」

「そっか」

「佐倉さん、あなたと出会えて、こうして毎日会って話して、本当に楽しかった。救われました。だから……ありがとう。本当にありがとうございます」


そう言ったとき。

僕はただ。


ただ笑っていた。


「そうか。…そんな笑顔見られただけでもよしとしないといけないのかね」

「え?」

「ま、いいや。ただ感謝してくれてるならさ、最後に一個お願い」

「はい」

「二十九日とは言わねぇよ。誕生日だし、俺じゃなくて別のやつといたいだろ?だからさ、二十八日に最後にもう一度だけ会って欲しい」

「それは…」

「拒否権はなし!送別会…やってやるよ。俺ら二人だけだけどな」


ふっ、と笑う佐倉さん。

ここでもう一度思った。

佐倉さん、やっぱり僕は幸せ者ですね。

あなたに出会えて。

だから、僕ももう一度笑って。


「はい…楽しみにしてます。僕、いっぱい食べますよ!」

「分かってるっつーの。まかしとけ」


佐倉さん。

ありがとう。


しおりを挟む
感想 104

あなたにおすすめの小説

それ以上近づかないでください。

ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」 地味で冴えない小鳥遊凪は、ある日、憧れの人である蓮見馨に不意に告白をしてしまい、2人は付き合うことになった。 まるで夢のような時間――しかし、その恋はある出来事をきっかけに儚くも終わりを迎える。 転校を機に、馨のことを全てを忘れようと決意した凪。もう二度と彼と会うことはないはずだった。 ところが、あることがきっかけで馨と再会することになる。 「凪、俺以外のやつと話していいんだっけ?」 かつてとはまるで別人のような馨の様子に戸惑う凪。 「お願いだから、僕にもう近づかないで」

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

記憶の代償

槇村焔
BL
「あんたの乱れた姿がみたい」 ーダウト。 彼はとても、俺に似ている。だから、真実の言葉なんて口にできない。 そうわかっていたのに、俺は彼に抱かれてしまった。 だから、記憶がなくなったのは、その代償かもしれない。 昔書いていた記憶の代償の完結・リメイクバージョンです。 いつか完結させねばと思い、今回執筆しました。 こちらの作品は2020年BLOVEコンテストに応募した作品です

忘れ物

うりぼう
BL
記憶喪失もの 事故で記憶を失った真樹。 恋人である律は一番傍にいながらも自分が恋人だと言い出せない。 そんな中、真樹が昔から好きだった女性と付き合い始め…… というお話です。

僕のために、忘れていて

ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────

キミと2回目の恋をしよう

なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。 彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。 彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。 「どこかに旅行だったの?」 傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。 彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。 彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが… 彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?

彼の理想に

いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。 人は違ってもそれだけは変わらなかった。 だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。 優しくする努力をした。 本当はそんな人間なんかじゃないのに。 俺はあの人の恋人になりたい。 だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。 心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

処理中です...