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大学生編
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しおりを挟むーside 佐倉伊織ー
なんとなく。
なんとなくだけど。
もしかしたら俺、見込みあんじゃねぇか。
って思いだしてたんだ。
毎日、決して長い時間じゃないけど。
それでも毎日会って。
ケイは楽しそうにしてて。
俺もそれが嬉しくて。
たまに我慢できなくて触れたりもした。
ケイはそれを嫌がらずにただ恥ずかしそうにはにかんでた。
だから、まんざらじゃないんじゃないかって。
そう、思ってた。
そんな時。
時間になってもケイが現れない。
遅刻なんて珍しいな、なんて思いながら。
でも、走って息を切らしながら俺の前に立って。
「…ごめんなさい!」って。
そんな姿を見るのも意外と楽しみだったりした。
十五分。
三十分。
あまりに遅いので心配になる。
すぐにスマホを取り出してあいつにかけた。
五コール目、六コール目…
ケイは出ない。
まさか事故にでも。
縁起でもないことしか頭に浮かばない。
くそっ。
俺に今出来る事は電話をかける事くらいしかないのか?
どこに住んでるかさえよくは知らない。
知ってたら今すぐ向かうのに。
何度も何度も。
かけては留守番センターに繋がる。
六度目…いや七度目か?
また、あの機械的な女の声を聞くのかと思ったとき。
「……もしもし」
聞き漏らしてもおかしくないほど小さな声が電話口から聞こえた。
「ケイ!…ケイ、お前、大丈夫なのか?事故とか…そんなんじゃ…」
「…違います。ごめんなさい。今日は、行けなくて…」
「どうしたんだよ。なんかあったのか?」
「いえ…なんでもないんです。…ごめんなさい」
「はぁ……無事なら、お前が無事ならそれでいいよ」
うそ。
本当は来て欲しかったくせに。
なんでもない?
そんなわけないだろう、そんな声して。
口調がまた振り出しに戻りかけてる。
なんでだ。なにがあったんだ。
「…佐倉さん?」
「ん?なんだ?」
「明日。明日は行きますから」
「そうか…分かったよ」
たった一日会えないだけでこんなにも苦しい。
明日お前に会ったら。
きっと俺はまた我慢できずに触れてしまうだろう。
これくらいは許されるよな?
「あの…僕、佐倉さんに話があるんです」
「話?何?」
「明日…言います」
「……そうか」
「はい。…それじゃ…」
「ぁ、ケイ!」
「…なんですか?」
「その話は…その話はいい話…だよな?」
「ぁ…」
「ケイ?」
「僕…あの、おやすみなさい」
ツーツー……
愛しい人の声が途絶える。
いい話だと。
ケイはそう言ってくれなかった。
ケイ。会いてぇよ。
でも会いたくない。
明日会ったら。
そうなのか?
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