僕は本当に幸せでした〜刹那の向こう 君と過ごした日々〜

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大学生編

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ーside 桐生玲人ー


最悪の気分。

怒りでもなく。悲しみでもなく。

ただ俺の中にあるのは無。

喪失感とでも言えばいいのか。


もしかしたら慶太が別の誰かになんてこと。

自分の繰り返してきた事を考えればこんな事簡単に予想が出来たのに。

でも、どこかで思っていたんだ。

慶太に限って、と。


浅はかで自分勝手な思い。

でも、俺はそれくらいうぬぼれていた。


慶太の思いに。あいつの俺への愛に。

全てに。

甘えていた。


あの日。

慶太があの車に乗り込んだ日。

それ以来。

俺は不気味なほどに帰りが早くなった。


今までと全く逆で。

俺の帰りを待っていたはずの慶太を、今度は俺が待つようになる。


そしてこれだけは誓って言える。

あの慶太が帰ってこなかった夜から一ヶ月。

俺は誰も抱いてはいない。

それは慶太も含め。


初めは、ただ慶太が本当に離れていくかもしれないと思ったから。

「別れる」という言葉を初めて慶太が発した事からだったと思う。

でも今は、もうそんなことを考える余裕さえなくて。

別の相手を考えるだけの余地が俺の頭の中にはなくて。


あるのは、慶太と俺の想像する相手。


他の何にも集中が出来ない。

気が気じゃなくなる。

慶太が帰ってこないと不安で。

胸をかきむしりたくなるほど苦しくて。

あいつが帰ってきたらほっとして。


たまに俺の嗅いだ事のない匂いが慶太からすると。

すぐに風呂場に連れてってシャワーをぶっ掛けたくなって。

なんで俺がこんな辛い思いを、って。

そんな相手などいないのに誰かを恨みたくて仕方なくなる。


でも、これが。

慶太の感じてきた思いなのだと。

考えないようにしてたけど、でも認めざるをえなかった。


だからだと思う。

俺が慶太に何も言えなかったのは。


そしてそんな時。

あいつがまた近づいてきたんだ。

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