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大学生編

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販売促進課に近付いた時、ぞろぞろと中から人が出て行くのが見えた。


(ヤベ…もう行っちまったかなぁ。)


そう思って入り口から中をうかがってみると。

ただ一人。

まだ机でパソコンに向かってるやつがいた。


佐倉伊織。

そいつ。


誰もいないのをいいことに俺はズカズカと中に入っていく。

人の気配を感じたのか佐倉はこっちを振り向いた。

なぜか一瞬お互いをにらみ合う形になる。

そして。


「……何か?」


失礼にはあたらないが決して受け入れてもいない当たり障りの無い応答。


「いや…佐倉伊織さん…ですよね?」

「そうだけど…どちら様?」

「あ、俺、企画制作部の日比野敦といいます」

「日比野敦…へぇ。君なんだ、評判の。ふーん」


評判?

ま、とにかく俺のことは知ってるらしく話を始めやすいと思った。


「いい評判だとイイっすけど、ははっ」

「あぁ、敬語別にいいよ。つか、そっちの方が入社早いんだし、むしろ俺が使えって感じ?」

「じゃ、タメで!」

「あぁ……で、なんか俺に用でもあんの?」


おっと、忘れるところだった。

こんな事するために来たんじゃねぇっつーの。


「いや、いきなりで悪いんだけどさ…」

「何?」

「いや…あのさ……水野慶太って知ってる?」


慶太の名前を出した途端、今までのちょっとした和やかな空気が一瞬で消えてしまう。

「なんで知ってるんだ?」

そんな感じの険しい表情になる。


「知ってるみたい…だな」

「お前?……お前なのか?」

「は?」

「ケイの『彼氏』。指輪の男なのか?」


へぇ。

そんなところまで知ってるんだ。

慶太、結構こいつに話してんだ…。


「違ぇよ。……俺はただの『お友達』」

「……そっか。俺の想像とは違ったから、まさかと思って」

「でも『彼氏』が誰なのか、知ってるよ。つーか、俺の親友だし」

「あっそ。で?そのお友達のためにケイともう会うなっつってんの?」

「いや、そういうわけじゃ…」

「悪いけどさ、もしそうなら無理だわ。つか俺、マジだし」


若干笑みを作って軽い感じで言ってるけれど。

こいつ。

確かにウソは言ってない。

本気だ。


「ま、どこでどうやって俺の事知ったのか知らないけどさ。ケイと会うことは止めねぇよ」

「……慶太とはどうやって?」

「教えるわけねぇじゃん。…あんたの最低な親友様に感謝って感じかなー」

「なにそれ」

「だから、教えねぇよ。傷ついたケイはちゃんと俺が責任持って世話するからさ。優しくして、「好き」と囁いてな。誰かと違って…」

「お前!」

「なに?「汚い」とでも言う気か?…別に汚くたっていいよ。ケイが俺のほうを向いてくれるなら、俺は何でもしてやる」

「………」

「俺なら絶対に泣かせない。あんな顔…させねぇよ」

「…」

「悪いけど、俺も昼飯行くから。仕事も早く終わらせないとだし。じゃあな」


そう言ってパソコンを閉じてさっさと出て行ってしまった。


くそっ。

……汚くなんかねぇ。

あいつのやってる事、誰が責められるわけでもない。


「会うのをやめてくれないか」

そう言うつもりだったけど言えなかった。


悪い、玲人。

お前の相手強すぎるわ。


マジで気をつけねぇと持ってかれんぞ。



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