僕は本当に幸せでした〜刹那の向こう 君と過ごした日々〜

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大学生編

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ーside 桐生玲人ー


慶太とキスをした。

と言うよりは俺が不意打ちでしたようなものなんだけど。


俺があのことを知ってしまったからだろうか。

慶太がよそよそしく見えるのは。


だから、つい腕を掴んでしまって。

キスがしたくて。

唇の先だけ掠めるようなキスをした。

身体を重ねるどころか、最近ではキスさえしていなかった。

久々の慶太の唇はとても甘美なもので……


だけど。

離れてすぐ、俺は放心してる慶太の顔を見ずにリビングへ向かった。


それは慶太の表情を伺いたくなかった、と言うよりはむしろ慶太に自分の顔を見られたくなかった。

だって俺はきっと今までで一番みっともない顔をしてたと思うから。


風呂場のドアが開いて閉まる音を確認する。

さっきまであんなにもにぎやかだったのがまるで嘘のように。

今では静けさしかない。


敦がいるだけであんなにも違うものなのだと実感する。

俺も。

慶太も。

やはり敦がいると慶太はとても楽しそうで。嬉しそうで。


どこかでまだそれを「憎む」気持ちがあるのだけれど。

以前ほどではなくなったような気もする。


くるくると変わる慶太の表情。

微笑ましかった。


これは俺が少しは成長したと言う事だろうか?

いや、違うか。

ただその「対象」が変わったんだ。


今は敦ではない。

俺以外で慶太の一番近くにいるやつ。

それが変わったんだ。


高校のときに敦に向けたような表だった激情ではない。

もっと内側にあって。

ふつふつとたぎるような、そんな感情。


だから余計に怖い。

なんで俺はこんなにも冷静にふるまえているのだろう。

そう思うと怖かった。


これが吐き出されたとき俺はどうなってしまうのか。


慶太。

その時は。

その時はお前が俺を止めてくれるか?


どうやってでもいい。


俺の「生」を止められたとしても。

慶太。

お前ならいいよ。


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