231 / 303
大学生編
55
しおりを挟む隠れた俺らの近くをあの車が通り過ぎる。
そのわずか一瞬。
慶太の顔が見えた。
やっぱりあいつは。
微笑んでいた。
運転席に乗っていたやつは暗くてよく見えなかったけど。
多分、男…だと思う。
慶太はまったくためらう事も無く車に向かっていった。
という事は今日初めてああやって迎えに来ていたというわけじゃないのだろう。
いつからか毎日少しだけ遅く帰ってくるようになった慶太。
それはこういうことなのか?
慶太…お前…浮気をしているのか?
俺以外の男と。
キスをしたり抱き合ったり。
そういうことをしているのだろうか。
「…おい」
ぐっと肩を掴まれて思い出す。
自分が一人ではなかったということに。
「敦…」
「…玲人。お前に慶太を怒る資格なんて無いぞ」
「……」
「分かってんだろ?だからお前、隠れたりしたんだろ」
その通りだった。
と思う。
自分でも考える前に身体が動いた。
慶太に見つかりたくなかった。
俺があの場面を見たということ。
「なぁ、敦…」
「…あ?」
「慶太は…慶太はさ…」
「なんだよ」
「…いや…なんでもねぇ」
「『慶太は浮気をしてるのか?』そう聞きたいのか?」
「………」
「さあな、分かんねぇよ。現場見たわけじゃねぇしな。…そういえば満足か?」
たしかに見てない。
けど。
ただ会ってるだけだとしても、俺は。
今、俺の中にあるのはたった一つ。
『あいつは誰なんだ?』
慶太の周りにああやって親しく会うなんてやつはいなかったはずだ。
だって俺がそうしたから。
じゃあ、いつ?
どこで?
ふと頭に浮かんだのはあの見知らぬ男物の洋服。
慶太が一晩帰ってこなかった日に着て帰ってきた服。
そしていつの間にか消えていた服。
あれはその『男』のものなのか?
ぐるぐると駆け巡る『男』
吐き気がしてくる。
気持ちが悪い。
相手を。
消し去ってしまいたい。
そんなことばかりが頭を占めていて。
俺は敦の言ってる最後の一言を。
耳に入れてはいなかった。
「これがお前のしてることだ。玲人、今お前が感じてる思いを慶太は五年以上してきたんだ!」
応援ありがとうございます!
104
お気に入りに追加
188
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる