僕は本当に幸せでした〜刹那の向こう 君と過ごした日々〜

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大学生編

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ーside 佐倉伊織ー


気づいて欲しい。

でもどこかで気づいて欲しくないとも思う。

せっかくここまでやってきたんだ。

全部ぶちまけてこの築いたものを壊してしまいたくない。


だけど。

やっぱりこの膨らむばかりの思いをずっと自分の中に閉じ込めておく事はできなくて。

ケイに触れる回数が増えていった。

髪の毛に触れ。

肩に触れ。

頬に触れ。


初めは触れるたびに少し身体がびくついていたけど。

最近では少し慣れたのかそれもなくなって。

ただ恥ずかしそうにはにかむ。


あぁ。

抱きしめる事ができれば俺はどれだけ満たされるのだろう。


毎日毎日欠かすことなくケイと会って。

いろんな表情を見ることが出来て。

お前の中の俺のポジション。

結構高いんじゃないかな、なんて。

そう自惚れたりもした。


そんな時だった。


いつものようにあいつを待って。

来るのが少し遅くて不安になる。

もしかしたら来ないんじゃないか。

けどケイは来てくれた。


「ごめんなさい」とそう言って席に着く。

腰掛けるなりあいつが注文したのはどう見ても異常に甘そうなケーキ。

見るだけで俺は胸焼けを起こしそうだ。

でもそれを本当においしそうに食べて。

おまけにその年で顔にクリームまでつけて。


考えるより先に行動していた。

手が伸びて、あいつの頬に触れて。

自分の指についたクリームを口に持っていった。

甘い…。

普段の生活で絶対に口にしないものだけど。

ケイと同じものなら。

それもなんかうまく感じることが出来た。


その後くらいからだろうか、ケイの様子がなんとなく変わった気がする。

時間はいつも通りあっという間に過ぎてしまって、あいつを帰さなければいけない時間。

明日はバイトのはずだとチェックした。


なのに。

「迎えはいいです」

「明日は会えません」

そして、「もう会わないほうがいい」と。


なぜ?

なんでそんな急に?

俺は一体何をしてしまったのだろう?


ケイ、気に障るようなことをしたか?


決して俺のほうを見ようとはしないケイ。

俺から目をそらす。


気づいたのか。

きっとケイは俺の気持ちに気づいたんだ。

だから離れていこうとしてるんだ。


「気づいたんだろ?」

そうたずねたら、あからさまに身体が大きく跳ねた。

「分からない…」とケイは答える。


ばーか。

お前は本当に分かりやすいよ。


なぁ。

言わせてくれ。

もうそろそろ限界なんだ。

この気持ちを閉じ込めるの。


だから…だから……


「ケイ…好きだよ。」

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