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大学生編
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しおりを挟むそして今日も向かうあの場所。
バイトのある日はいつも佐倉さんが迎えに来てくれる。
今日はお休みだから早い時間。
のはずなんだけど。
なかなか進もうとしない僕の足。
この角を曲がってまっすぐ進めばあのファミレスにつくのに。
ずっと頭の中を回ってること。
『もしかしたら佐倉さんは……』
でもそんなの聞けるわけない。
「佐倉さん、あなたは僕のことが好きなんですか?」なんて。
絶対に無理だ。
ゆっくり、ゆーっくり。
でもどんなにトロトロ歩いてもついてしまったものは仕方ない。
(よし!)
訳のわからない気合いを入れて店内へ入った。
「いらっしゃいませ!…ぁ、もうお待ちですよ」
「…ありがとうございます。なんか、すみません」
もう顔なじみになってしまった店員さんがクスクス笑いながら指差す先にはもちろんあの人。
僕に気づいて片手を挙げたりなんかして。
でも、やっぱりかっこいい人はなにしても様になる。
「ごめんなさい…遅くなりました」
「いや…俺も来たばっかだし」
でも佐倉さんの前にあるお水の入ったグラスは完全に氷が溶けきっていた。
わざと気づかない振りをして席に着く。
小腹がすいてたからケーキを注文した。
「ケーキって…」
「…だめですか?おいしいじゃないですか、ケーキ!」
「俺、甘いもん苦手なんだよ」
「そういえば、いつもコーヒーブラックですもんね」
「そう。ほら、俺『大人』だ・か・ら」
大人は自分の事大人って言わないんじゃ…。
佐倉さん、甘いのダメなんだ。
玲人とは逆だな。
でもコーヒーは玲人も砂糖なしなんだよね。
不思議だ…。
あ…また。
悪い癖。
なんでも玲人と比べる。
忘れるかのように僕の前に運ばれてきたケーキに手をつける。
「ん…おいしい、これ」
「…マジ?」
「はい!今度はこっち試そうかな…」
「うわ…それ砂糖の固まりじゃん」
「でもおいしそうですよ?」
「いや、お前がいいなら…って。ぶはっ、お前!」
「…なんですか?」
急に吹き出す佐倉さん。
何?
事態が飲み込めない。
「ガキか、お前は…」
「へ?」
「ほら…」
あ…。
と思ったのは一瞬。
すっと僕のほっぺに佐倉さんの指が触れて。
その指を自分の口に持っていく。
「二十歳越えたやつが生クリーム顔につけんなよ。……つか…甘っ。」
やっぱり。
気のせいじゃない…よね。
嫌いなものを口にしたくせに。
そんな嬉しそうな。
そんな幸せそうな。
そんな顔して笑わないでください。
僕は気づかないままでいたかった。
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