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大学生編
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しおりを挟むーside 水野慶太ー
「…慶……慶太…慶太?」
自分の名前を呼ばれているのだということに気づく。
はっと顔を上げれば目の前にいるのは玲人。
自分が今夕飯を食べていたのだと思い出す。
「お前さ、ずっとボーっとしてたけど、具合でも悪いの?」
「…ううん、ごめん。ちょっと…考え事」
「っそ。…なんか、あんの?」
「え?」
「いや…そんな、考える事…あるの?」
「ぁ…別に。疲れてる…のかな?」
ふふっと笑ってごまかす。
ちゃんと笑えてたかどうかは分からないけど。
それ以上つっこむのが面倒くさいのか。
それとも、僕が話さないと思ってるのか。
玲人はそれ以上聞いてはこなかった。
「ごちそーさん」
きれいにすべて食べてくれて箸を置く。
「お粗末さまでした。…玲人…あの…おいしかった?」
「…うまかった」
「そっか…ありがと」
いつもの返事を聞いて僕は食器を洗おうとキッチンへ向かった。
ジャーっと、勢いよく水を出す。
シンクに水をためて食器をそれにつけた。
よくあわ立ったスポンジでお皿を洗いながら僕はさっきのことを思い出す。
考え事…か。
今でも佐倉さんとは変わらず毎日会ってる。
いつも通り、いつもの場所。
でも最近。
少しだけど佐倉さんが変わったような気がするんだ。
髪の毛をクシャクシャッと撫でられる様になった。
デコピンもされるようになった。
たまに頬に触れられることがある。
そして何より。
目だ。
あの目。
あの目を見て思い出すのは…自分。
似てる気がするんだ。
自分の事だからよく分かる。
似てる。
僕が玲人を見る目に。
ふっ、て笑ったあの目。
ただ何も言わず僕の事を見つめる目。
どの目も。
なんか、愛おしいものを見るような目で。
勘違い、だと思う。
ううん、違う。
思いたいんだ。
じゃないと。
佐倉さん、あなたに会えなくなる。
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