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大学生編
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しおりを挟むーside 水野慶太ー
佐倉さんと会って話すのは自分でも驚くほど新鮮で。
そして。
とても楽しかった。
高校を卒業してからは本当に家と大学とバイト先の往復ばかりであまり出歩いたりしてなかったし。
なにより。
こうして玲人以外の人と毎日会うというのはまず無かった。
どんな小さな話でも。
くだらない話でも。
面白みの無い話でも。
佐倉さんは聞いてくれた。
こんな事玲人にだって話さないというような本当に些細なことでさえ。
いつしか少しだけ佐倉さんと近くなった気がして。
それは『友達』とはまた違うような気もするんだけど。
でも、なんとなくこの人ならいいかなと思ったりして。
僕は自分の事をポツリポツリと漏らしだす。
幼稚園のときは意外と天邪鬼、何でもやりたがる子供で、ジャングルジムのてっぺんから落ちて腕の骨を折ったこと。
小学校低学年では本が好きな事もあって市の作文コンクールで金賞を取ったこと。
それから。
両親の事。
九歳のときに『家族』と別れたこと。
それから施設に入ったこと。
彼は笑うことも泣く事も怒る事もせず。
ただひたすら聞いてくれたんだ。
僕を慰める事も無かったし。
下手な同情をちらつかせる事も無かった。
だからだと思う。
僕が素直に話せたのは。
「かわいそうに」とか「大変だったな」とか。
そんなこと言われてたらきっと僕は話してなかっただろう。
だって。
そんなの僕にしか分からない感情だから。
聞く事に徹してくれる佐倉さんがとてもありがたかった。
生い立ち。
幼稚園、小学校、中学校。
そしてとうとう高校の話をすることになる。
きっと僕はこの人にウソはつけないだろう。
だから。
玲人の事も。
きっとこの人に打ち明けるんだ。
情けないやつだと思われるかな?
実際そうだから仕方ないか。
「へぇ…で、高校から一人暮らし始めたのか?」
「…はい」
「お前さ、なんか新入生代表の挨拶とか読んでそうだよな?」
「……」
「あ…図星だった?」
「…緊張しました」
「ま、お前ならそうだろうな、ははっ。…部活とかは?何部?」
「帰宅部」
「つまり…何部にも属して無かったって事か」
「まぁ…そうですね。バイトしなきゃいけなかったんで」
「そっか。何してたわけ?」
勉強のことを話して。
バイトのことを話して。
それで。
「じゃあさ、バイト無いときは何してた?」
「なんだろ?…本読んだり、勉強したり……あと…」
「…あと?」
「……友達と遊んだり」
そうだった。
玲人と僕とあっちゃん。
いつも三人一緒だった。
なんか懐かしくて。
自然と笑みが浮かんだ。
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