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大学生編
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しおりを挟むーside 佐倉伊織ー
あの日。
ようやくケイに会えたあの日。
やっぱり三十分なんてあっという間に過ぎて。
足り無すぎて。
帰ろうとするあいつに言ったんだ。
「明日も来い」と。
今度はこの前みたいにあやふやな感じにはしない。
絶対に何とかする。
そう自分に誓った。
少々。いやかなりか。
強引に押しまくった。
進歩した事が一つある。
ケイは『来ない』とは言わなかった。
きっと来てくれる。
そういう確信を持った。
だから携帯の番号を握らせて俺はその場を去った。
バイトがあると言ったケイ。
何時でもかまいはしない。
明日鳴るであろうスマホを肌身離さず持つくらいだ。
そして期待通りスマホは鳴った。
登録してない番号を見るなり、それがケイだと分かった。
「…もしもし?」
「ぁ…もしもし…えっと…なんだ?あの…」
「ははっ、お前何焦ってんの。…ケイだろ?」
「…はい」
「バイト終わったのか?」
「いえ…後…一時間くらいで…」
「っそ。で、どこなの?」
「どこって…○○の駅の近くのアックですけど…」
「分かった。じゃ…一時間位したら行くわ」
「え?いや、大丈夫です!来なくて…僕が…」
「いいから。じゃ、後で」
まだなんか喚いてた気がするけど、行くものは行く。
俺は一度決めたら意見は変えない。
だから、俺様だとか言われたりもするけど。
あいつにこっちに来させてその分の時間を無駄にするなら俺が車で行ったほうが絶対早い。
電話を切るなり、俺はすぐにその番号を登録した。
<ケイ 0901029△△○○>
顔の筋肉が緩むのを抑えきれない。
あいつの番号以外消してもいいような気分だ。
それから俺は「一時間後」に間に合うように家を出てあいつを迎えに行った。
五分くらい車の中で待ってたらあいつが裏の従業員出口から出てきたのが見え、ライトを数回照らした。
すぐに駆け寄ってくるケイ。
助手席に乗せ、走り出す。
向かう先は俺らのあの場所。
あれから十日。
あの日から始まった俺らの日課。
少しずつだけど、あいつのことを知りだせている。
あの時ケイは分からないと言った。
「お前の事知らないとさ、お前の事知れないから」
だってそうだろ。
お前のことを知らないとさ、お前は俺に何も話してなんかくれないだろ。
だからお前の事を知ることが出来ない。
そんなのごめんだ。
どんな小さな事でもお前に関することなら素直に嬉しいと思える。
初めは本当にいわゆる『普通の』話。
今日こうしたとか。
大学ではどんな事してるとか。
で、それが終わったら、少しだけケイの奥にある話をしてくれだす。
幼少期の事。
両親の事。
施設の事。
心を開いてきだしてくれてるのだと嬉しくなった。
そして。
どうしてもっと早くこいつに出会えなかったのかと、『神様』というものを恨む。
その時俺がそばにいたら。
あいつのために何かをしてあげられたのかもしれない。
驕りと言われればそれまでだけど。
そしてもしかして。
もしかして、そうだったならば。
今あいつの隣にいるのは俺だったのかもしれないのに。
『たら』『れば』
言い出せばきりがない。
でもそう思わずにはいられなかったんだ。
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