僕は本当に幸せでした〜刹那の向こう 君と過ごした日々〜

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大学生編

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一晩。

長いような気もしてたけど過ぎてみればあっという間だった。


佐倉さん。

ほとんどの時間をしゃべっていたのは彼だけれども。


佐倉伊織さん。

二十四歳で僕の三つ上。

会社勤めのサラリーマンさん。

どこの会社までかはさすがに知らないけれど。


話し始めてから僕は彼の顔を初めて見た。

やはりいるんだなと思う。

所謂「いい男」というのは。


身長も玲人と同じくらいだと思う。

骨格とかはどうだろう。

玲人より少しだけたくましいのかなぁ?

顔だって玲人と同じくらい…


なんて。

全てが玲人基準なんだと改めて思った。


時折眠そうな表情やあくびをこらえるところを見ると非常に申し訳ない。

何度も断ったし、彼が勝手にこうしているのだけれど。

やはりなんというか。


「もういいですから。家に帰ってください」

そうお願いするも「大丈夫」と一言で片付けられる。

それを何度も何度も繰り返してとうとう夜が明けてしまった。


「あの…佐倉さん。朝です…ね」

「あぁ…そういやなんか明るくなってんな。つか、今何時?」

「えと…七時です!会社。会社行かないと!」

「ははっ、お前が慌てんなよ。ま…確かにそろそろ用意しださないとだけどな」

「じゃ、あの急いで。早く帰って下さい!遅刻とか…したら」

「帰れとかひどくね?でも…行かないとな。お前は…いいのか?大丈夫なのか?」

「ぁ……はい。平気です」

「…っそ」


そう一言つぶやいて佐倉さんはうーんと背伸びをした。


「よっしゃ、じゃあ行くかな」

「はい。……あの…付き合っていただいて…ありがとうございました」

「別に。俺が勝手にした事だろ」

「でも…ありがとうございます」

「お前は礼言うか謝るかどっちかだな。あ、お前さ……」

「なんですか?」

「お前、今日もここに来い」

「は?」

「来いよ、ここ」


戸惑い、これが今の僕にぴったりの言葉。

彼の意図する事がよく分からない。


「あの、僕…無理です」

「いいから。来いな」

「でも僕…やっぱり…えと…」

「ま、いいや。俺はいるから。待ってるから、来い。…じゃ、俺行くわ。またな、ケイ!」

「え、ちょっと、僕…来ませんよ。佐倉さん!」


言うだけ言って佐倉さんは去ってしまった。

伝票と一緒に。


いい逃げなんてずるい。

でも、僕は来ない。


関わりなんて持たないほうがいい気がするから。

彼は優しい。

それくらいは分かる。

甘え。

そんな事、僕には出来ない。


(うん。佐倉さん、ごめんなさい。やっぱり僕来れません)


心でそう謝って僕も席をたつ。


帰るところはない。

でもそれでも僕の行く場所はひとつしかない。


選ぶ事はできない。

戻らなくては。


あの部屋に。

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