僕は本当に幸せでした〜刹那の向こう 君と過ごした日々〜

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大学生編

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ーside 水野慶太ー


暖かさが満たされ。食欲が満たされ。

少しだけ落ち着いたような気がした。


落ち着いたところで思い出すのはやはり玲人のこと。

何をしてるのだろうか。

僕を探してくれてるのだろうか。

それとも。

代わりをまた連れ込んでいるのだろうか。


自分でも気づかないうちに指輪を触っていたらしい。


「なぁ」

「……ぁ…はい」

「それさ」

「それ?」

「指輪」

「ぇ…あぁ」

「それ…彼氏とか?」


俯き加減だったのがあまりの驚きに顔を上げてしまう。


この人…今なんて?

目線が泳ぎだす。

あまりにも分かりやすい動揺の仕方。

これじゃ、「はい、そうです。僕には彼氏がいます。」と言っているようなものだ。


軽蔑されるのかな。

「気持ち悪い」となじられるのか。


「おい!…そんなビビんな。別に…なんとも思わねぇよ」

「………」

「偏見とかねぇし」

「そぅ…ですか…」

「で?」

「で、って?」

「お前がここにいるわけ。……そいつなの?」


なんで?

どうしてそんなこと聞くの?

言いたくない。

口になんてしたくない。


完全なる黙秘。

口をつぐんでまた下を向く。


「言いたくねぇなら別にいいけどさ。……つか、お前さ名前何?」

「…名…前?」

「俺さ、さっきからお前の事『お前』としか呼んでねぇんだけど。…だから、な・ま・え!俺は、佐倉伊織」

「佐倉…伊織…さん。あの…かわい」

「かわいいとかいったら殴んぞ」

「…すみません」

「で…おまえは?」

「…水野です」

「水野…何?」

「慶太です」

「ふーん。…いくつ?俺24ね」

「あの…21です」

「へぇ、何してんの?俺は、まぁ、所謂サラリーマン?」

「えと、僕は大学…生」


質問攻め。だよね、これ?

でも良くしてもらったし…

変なことでもないし。

でもやっぱりなんか変な感じ。

あまりこうやって人と出会って自己紹介してとか、きっとそういうのが僕にはないからだ。


「大学どこ?」

「……T大です」

「お前さぁ…。俺が聞いといてなんだけど、あんまり言わないほうがいいよ」

「へ?」

「だから、あんまり詳しく言わないほうがいいってこと。どうすんの俺が大学に押しかけでもしたら」

「…すみません」


自分が聞いたくせに。

僕何で謝ってんだろう。


「ま、俺でよかったな。変なオヤジとかだったら今頃どっか連れ込まれてんぞ?」

「はぁ…」


(十分変な気もするけどなぁ。)


「ちょっと本題」

「本題?」

「行くところないんだろ?」


本題、か。

確かに。


「………」

「別に怒ってるわけじゃねぇ。お前今晩どうすんの?」

「………時間…つぶします」

「ここで?」

「…はい…多分」

「ふーん。……仕方ねぇ。付き合ってやっか」

「……え?あのいいです!僕…いいです!」

「遠慮すんなって」

「してないです…。本当に。明日平日ですよ、第一」

「あ、徹夜って事?俺まだ若いし大丈夫」

「あの…本当に結構で…」

「ま、時間たっぷりあるし…どうする?ドリンクバー行って全種類制覇すっか?」

「ぇと…僕の話…聞いて…ないです…ね?」


僕はなぜかその人とそこで夜を明かすことになる。

ドリンクバーで時間つぶすなんて店員にかなりにらまれたりしたし。

この人、佐倉さん。

かなりなんか強引で、色々話聞き出されたりしたけど。


でも。

ほんの少しだけ。

ちょっぴりだけど。


あの出来事を。玲人のことを。

考えなくてすんだ。

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