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大学生編

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ダッシュで家に帰りまたダッシュでコンビニまで戻ってきた。

それを悟られないように息を整えてからそいつの横に立つ。


着替えとタオルを差し出す俺。

またも無視するそいつ。

しまいには「見なきゃいい」とまで言い出しやがった。


(こいつ…。よし。)


「無理やり連れて行くぞ!」

その言葉を聞いてようやくピクリと反応を見せた。

わずかに顔を動かしてそいつは俺のほうを見た。


ほんの一瞬だけど俺たちの視線が交じり合う。


訳わかんねぇ。

何だよこれ。


身体のほうが先に反応した。

心臓が飛び跳ねる。


その一瞬。

わずか1、2秒。


俺は落ちてしまった。


「ありがとう」

初めてポジティブな言葉が聞けた。

にやけそうになるのを我慢して「別に」とそっけない態度を見せる。


そしてそいつは俺を残してコンビニに入っていった。

後ろ姿が見えなくなるまで俺の目はそいつを追う。


少しして出てきたあいつは俺がまだいることに多少驚いたようだったが、今度はさっきとはうって変わってお礼ばかりを言い出す。

「もういい」と言う俺にあいつは笑ったんだ。


不器用な、ぎこちない笑顔だったけど。

笑ったんだ。

俺に向かって。


落ち着きを取り戻しだしていたはずの俺の心臓がまたしても騒ぎだす。


『一目ぼれ』

なんて簡単な言葉なんだ。


でもこれがそれ。

落とされてしまった。

この時期にバカみたいにびしょ濡れのおかしなあいつに。


嫌がるあいつをなんだかんだと理由をつけて近くのファミレスまで引っ張っていった。

どうせ行くところなんてないということはなんとなく分かったから。


頼んだ飯が来たのを見て腹を鳴らすあいつ。


「しまった!」という感じでそろりと俺の顔色を伺う。

今までのつんけんした『誰も近寄らないで』という雰囲気とは違いすぎてたまらず笑ってしまった。


そいつはそんな俺を無視して食べだす。

自分も腹が減ってるはずなんだけど箸を進めるよりもそいつに注目してる時間のほうが長い気がした。


そして気づいたこと。


時折右手にある指輪に手をやるんだ。

くるくると回すように。


そして、いとおしげな表情と。

とても苦しい切ない表情。


悟ってしまう。

こいつには誰かがいるんだと。

そんな表情をこいつにさせる誰かが。

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