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大学生編
22
しおりを挟むいつまでもここでこうしているわけには行かない。
それくらい僕にだって分かってる。
でも行く所のない僕には今はここでこうすることしか出来ないんだよ。
あ、あっちゃん!
あっちゃんのマンションに行ってみようか。
ダメ…だよね。
玲人が来るかもしれないし。
まだ僕に興味があればだけど。
自分でそう考えて虚しくなった。
「興味」があれば、か。
再び一人の世界に閉じ籠った僕。
でもそれはすぐに壊される事になる。
「なぁ」
また目線だけを動かす。
さっきの…人?
「はい、これ」
その人が僕に差し出したのは大きなトレーナーとスウェットのパンツ。
あと、タオル。
「………」
「これに着替えな」
「……」
「あのなぁ、そんな格好でここにいると、見てるやつにも迷惑なの」
「…じゃあ、見なきゃいい」
「はぁ?目に入らないわけないだろ?」
「……」
「初対面のやつの家にいけないのは分かる。だからこれ。コンビニのトイレでも使わせてもらってこれに着替えろ」
「……結構です」
「受け取れ。じゃねぇと、無理やりにでも俺んちに連れてくぞ?」
その人の声は本気だった。
ちらりと顔を見る。
表情も真剣だ。
もし僕がこれを受け取らないと本当に引っ張っていかれるのだろう。
仕方がないと彼の持っているものに手を伸ばした。
「……とう……ます」
「え、何?」
「…ありがとう…ございます」
「別に。いいから行け」
言葉で答える代わりに僕は一度頷いてからコンビニの中へと入っていく。
「すみません……トイレお借りしたいんですが」
「あぁ…ここ奥行ってください」
店員の指差した方向に素直に向かい、トイレに入って鍵をかけた。
雨の水分のせいでとても重たくなった自分の洋服をかじかむ手を必死に動かして脱ぐ。
その身体を柔軟剤がよくきいていそうなふかふかのタオルで拭いた。
そして彼のくれた洋服に袖を通す。
(…あったかい。)
わざわざ家に帰ってまで取ってきてくれたんだよね。
なのに僕のとった態度は人として最低だ。
自分のことなんてあの人には関係ないはずなのに。
もう行ってしまったであろうあの人に非常に申し訳なく思う。
(もっときちんとお礼を言うべきだったのに。僕…何してんだろ。)
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