僕は本当に幸せでした〜刹那の向こう 君と過ごした日々〜

エル

文字の大きさ
上 下
197 / 327
大学生編

21

しおりを挟む

ーside 水野慶太ー


どれくらい歩いたのだろうか。

どれくらい時間が経ったのだろうか。


ずぶぬれになった僕の身体は外気にさらされて凍り付いてしまいそうだ。

今更だとは思ったけれどふと目に入ったコンビニの入り口で雨宿りをしてみた。


入っていく人。

出て行く人。

全ての人の視線が僕に向かう。


それもそのはずだ。

真冬にもかかわらず傘も持たず、ずぶ濡れになってただボーっと突っ立ている人間。

どう見たって変なやつにしか映らないだろう。


一度立ち止まってしまうと今度は足が動かなくなった。

雨はしのげるものの濡れた身体が乾くわけではない。


焦点の定まらないような感じでただどこでもない一点を僕はじっと見つめていた。


「ねぇ、ちょっと」


ふと男の人の声が降りかかってくる。

こんな自分に話しかける人間などいるはずないし、もちろん僕は反応などしない。


「おい、大丈夫?聞こえてんの?」


大丈夫?

何が?僕?

そんなわけないよね。


「君の事だよ!」


そう言われて肩をぐいっと掴まれた。


目線だけちらりとあげてみる。

背の高い男の人がそこにいた。

僕とそんなに年が変わらない感じの人。


とりあえず一目だけ見てまた僕は視線を元の位置に戻した。


一人にしてくれていい。

こんな僕に関わらないでくれていい。

そう態度で示したつもりだった。


なのに。

「俺さ、君に話しかけてるんだけど」

かまわず続けて話しかけてくる。


「君さ、今何月だと思ってるわけ?二月!真冬だ。そんなずぶぬれで風邪引くくらいならいいけど肺炎とかでも起こしたらどうするつもり?」


うるさい。

関係ない。

他人。

聞こえない。


「俺んちすぐそこだからさ。シャワーくらい貸すし」

「………」

「着替えだっているだろ?」

「………」

「おい!聞いてるの?」

「………ない」

「は?」

「…あなたに関係ないでしょ?放って置いてください…」


顔も見ることなく感情もこめることなくそう言い放った僕にその人はため息を一つついた。

そして僕の前から去って行った。


いらない。

玲人じゃないと要らない。

ほかの人の温もりなんて要らない。

しおりを挟む
感想 104

あなたにおすすめの小説

別に、好きじゃなかった。

15
BL
好きな人が出来た。 そう先程まで恋人だった男に告げられる。 でも、でもさ。 notハピエン 短い話です。 ※pixiv様から転載してます。

さよならの合図は、

15
BL
君の声。

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。 1日2話ずつ投稿します。

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

その日君は笑った

mahiro
BL
大学で知り合った友人たちが恋人のことで泣く姿を嫌でも見ていた。 それを見ながらそんな風に感情を露に出来る程人を好きなるなんて良いなと思っていたが、まさか平凡な俺が彼らと同じようになるなんて。 最初に書いた作品「泣くなといい聞かせて」の登場人物が出てきます。 ※完結いたしました。 閲覧、ブックマークを本当にありがとうございました。 拙い文章でもお付き合いいただけたこと、誠に感謝申し上げます。 今後ともよろしくお願い致します。

彼の理想に

いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。 人は違ってもそれだけは変わらなかった。 だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。 優しくする努力をした。 本当はそんな人間なんかじゃないのに。 俺はあの人の恋人になりたい。 だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。 心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。

紹介なんてされたくありません!

mahiro
BL
普通ならば「家族に紹介したい」と言われたら、嬉しいものなのだと思う。 けれど僕は男で目の前で平然と言ってのけたこの人物も男なわけで。 断りの言葉を言いかけた瞬間、来客を知らせるインターフォンが鳴り響き……?

僕は君になりたかった

15
BL
僕はあの人が好きな君に、なりたかった。 一応完結済み。 根暗な子がもだもだしてるだけです。

処理中です...