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大学生編

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ーside 水野慶太ー


あの後玲人は何も聞かないでただ僕をずっと抱きしめてくれた。

しばらくして「傷の手当てをしよう」と言い、消毒をして絆創膏を僕の指に張る。

そして僕は夕飯の準備に戻り、玲人はリビングでテレビを見る。

いや見ているふりか。

度々背中に視線を感じた。


聞き出さない玲人に、言い出さない僕。

繋がらない。

これをすれ違いというのだろうか。


夕飯を一緒に食べて。

いつもの「おいしい」を聞いてほっとして。

その日はそれで終わった。



でもあの人が来るのは止まなかった。

それまでのように週に一度。

多いと二度の時もある。


大学に来て校門近くで僕を待つ。

これ以上話すことはないと逃げる僕。

なのに何度言っても来るのをやめなかった。


そしてまた今日。

大学を出るなり「慶太」と声をかけられる。


「慶太。少しだけ時間をくれないか」

「……」

「話を聞いて欲しいんだ」

「………僕にはもう聞く話なんてありません」


そう言っていつものように通り過ぎようとする僕の腕を業を煮やしたのかこの人は強く掴んだ。


「ちょっ!……なんですか?離してください!」

「少し。本当に少しで良いから。だから。頼むよ」

「………」

「慶太。お願いだ」

「…最後にしてください。それが条件です」

「それは……」

「無理なら腕を離してください」

「分かった!分かった…。こうやって学校に来るのはこれで終わりにするから」


「学校に来るのは」という点で少し引っかかったが、とりあえず終わりにしてくれるならもう一度嫌味を聞くのを我慢すればいい。

そう思った。


でも。

嫌味の方がまだマシだったのかもしれない。


頭が真っ白だ。

うまくあの人の言ったことが理解できなかった。


あの人はなんて言ってた?

来る日も来る日もそのことが頭から離れない。

表には出さないけれど僕はかなり動揺していた。


そして、そんな時だった。

あんな事が起こったのは。


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