191 / 327
大学生編
15
しおりを挟むーside 水野慶太ー
あの後玲人は何も聞かないでただ僕をずっと抱きしめてくれた。
しばらくして「傷の手当てをしよう」と言い、消毒をして絆創膏を僕の指に張る。
そして僕は夕飯の準備に戻り、玲人はリビングでテレビを見る。
いや見ているふりか。
度々背中に視線を感じた。
聞き出さない玲人に、言い出さない僕。
繋がらない。
これをすれ違いというのだろうか。
夕飯を一緒に食べて。
いつもの「おいしい」を聞いてほっとして。
その日はそれで終わった。
でもあの人が来るのは止まなかった。
それまでのように週に一度。
多いと二度の時もある。
大学に来て校門近くで僕を待つ。
これ以上話すことはないと逃げる僕。
なのに何度言っても来るのをやめなかった。
そしてまた今日。
大学を出るなり「慶太」と声をかけられる。
「慶太。少しだけ時間をくれないか」
「……」
「話を聞いて欲しいんだ」
「………僕にはもう聞く話なんてありません」
そう言っていつものように通り過ぎようとする僕の腕を業を煮やしたのかこの人は強く掴んだ。
「ちょっ!……なんですか?離してください!」
「少し。本当に少しで良いから。だから。頼むよ」
「………」
「慶太。お願いだ」
「…最後にしてください。それが条件です」
「それは……」
「無理なら腕を離してください」
「分かった!分かった…。こうやって学校に来るのはこれで終わりにするから」
「学校に来るのは」という点で少し引っかかったが、とりあえず終わりにしてくれるならもう一度嫌味を聞くのを我慢すればいい。
そう思った。
でも。
嫌味の方がまだマシだったのかもしれない。
頭が真っ白だ。
うまくあの人の言ったことが理解できなかった。
あの人はなんて言ってた?
来る日も来る日もそのことが頭から離れない。
表には出さないけれど僕はかなり動揺していた。
そして、そんな時だった。
あんな事が起こったのは。
6
お気に入りに追加
241
あなたにおすすめの小説
君が僕を見つけるまで。
いちの瀬
BL
どんな理由があっても、僕はもうここを去るよ。
2人の思い出が詰まったこの家を。
でもこれだけは信じてくれるかな。
僕が愛してたのは君だけだ。ってこと。
浮気攻め×健気受け なのかなぁ?もう作者にも結末、cpわかりませんw
友人とその恋人の浮気現場に遭遇した話
蜂蜜
BL
主人公は浮気される受の『友人』です。
終始彼の視点で話が進みます。
浮気攻×健気受(ただし、何回浮気されても好きだから離れられないと言う種類の『健気』では ありません)→受の友人である主人公総受になります。
※誰とも関係はほぼ進展しません。
※pixivにて公開している物と同内容です。
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。
全17話、約6万文字。
【doll】僕らの記念日に本命と浮気なんてしないでよ
月夜の晩に
BL
平凡な主人公には、不釣り合いなカッコいい彼氏がいた。
しかしある時、彼氏が過去に付き合えなかった地元の本命の身代わりとして、自分は選ばれただけだったと知る。
それでも良いと言い聞かせていたのに、本命の子が浪人を経て上京・彼氏を頼る様になって…
浮気されてもそばにいたいと頑張ったけど限界でした
雨宮里玖
BL
大学の飲み会から帰宅したら、ルームシェアしている恋人の遠堂の部屋から聞こえる艶かしい声。これは浮気だと思ったが、遠堂に捨てられるまでは一緒にいたいと紀平はその行為に目をつぶる——。
遠堂(21)大学生。紀平と同級生。幼馴染。
紀平(20)大学生。
宮内(21)紀平の大学の同級生。
環 (22)遠堂のバイト先の友人。
その部屋に残るのは、甘い香りだけ。
ロウバイ
BL
愛を思い出した攻めと愛を諦めた受けです。
同じ大学に通う、ひょんなことから言葉を交わすようになったハジメとシュウ。
仲はどんどん深まり、シュウからの告白を皮切りに同棲するほどにまで関係は進展するが、男女の恋愛とは違い明確な「ゴール」のない二人の関係は、失速していく。
一人家で二人の関係を見つめ悩み続けるシュウとは対照的に、ハジメは毎晩夜の街に出かけ二人の関係から目を背けてしまう…。
生まれ変わりは嫌われ者
青ムギ
BL
無数の矢が俺の体に突き刺さる。
「ケイラ…っ!!」
王子(グレン)の悲痛な声に胸が痛む。口から大量の血が噴きその場に倒れ込む。意識が朦朧とする中、王子に最後の別れを告げる。
「グレン……。愛してる。」
「あぁ。俺も愛してるケイラ。」
壊れ物を大切に包み込むような動作のキス。
━━━━━━━━━━━━━━━
あの時のグレン王子はとても優しく、名前を持たなかった俺にかっこいい名前をつけてくれた。いっぱい話しをしてくれた。一緒に寝たりもした。
なのにー、
運命というのは時に残酷なものだ。
俺は王子を……グレンを愛しているのに、貴方は俺を嫌い他の人を見ている。
一途に慕い続けてきたこの気持ちは諦めきれない。
★表紙のイラストは、Picrew様の[見上げる男子]ぐんま様からお借りしました。ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる