僕は本当に幸せでした〜刹那の向こう 君と過ごした日々〜

大学生編

13

頭に血が上ってどうしようもない。

怒り、というのとはまた違う気もする。

ただなんか身体中の血が沸騰してる感じ。

言い表せない感情。


努めて何も考えないように。

そして早く僕の居場所へ。


マンションが見えてほっとする。

ここが僕の帰る場所なんだと。


（…玲人が帰ってくるまでに夕飯作らないと。）


靴を脱いでリビングへ向かう。


「慶太」

まさか人がいるとは思っていなかったため大げさに身体がびくついた。


「悪ぃ。ビビらせたな」

「ぁ…ううん。大丈夫。……玲人、早かったんだね」

「まぁな。ほらもうこの時期、四年生ってあんま学校行かなくていいしさ」

「そだね。……ぁ、ごめん！お腹すいたよね。今作るから」

「おぉ。頼むわ」


パタパタとすぐにキッチンに向かう。

上着を脱いで冷蔵庫の中をあさった。


（野菜たっぷりのミネストローネにでもしようかな。）


冷蔵庫に残った野菜たちをまとめて取り出し刻みだした。


トン…トントン…


頭によぎるのはやはりさっきの事。

冷静になってみると恥ずかしいことをしたのかもしれない。


トントン……


あんなに一人騒いで。

バカみたい。


トントントン…


でも。

でも。

やっぱり分かんない。

なんで？なんでなの？

今更目の前に現れたりしなくてもいいじゃないか。

あの人の存在を完全に忘れる事なんてできないけど。

でも来なければ思い出さなくてすんだのに。


トントントントン…ドンドン！！


「あっ、痛っ！」


包丁が滑って自分の指に突き刺さった。

血が噴き出す。

熱い。

ポタポタと指を伝って床に落ちる。


「慶太！バカやろう。何やってんだよ」


僕の声を聞きつけてすぐに玲人はそばによって来た。

そしてためらう事もせずに傷口を口に含む。


「よかったな。あんまり深くはいってねぇみたいだ」


ホッとしたよな表情で力なく笑う玲人に僕はぎゅっとしがみつく。


「どうし…た？」

「玲人……玲人…」

「ん？」


そんな僕の背中に玲人も手を回し抱きしめかえしてくれる。


「好き。…好き」

「ん」

「好き…玲人…」

「分かってる」


暖かい。

玲人の腕の中。


でも欲張りだから今は言葉も欲しいよ。


ねぇ、いつからかな。

玲人が僕に好きと言ってくれなくなったのは。

今だけでもいい。

今、言葉が欲しいよ。


誰かに愛されてるという証拠が欲しい。