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大学生編
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しおりを挟む「ご注文は?」
「僕…ミルクティーください」
「私にはホットコーヒーを」
注文をとりに来た店員にオーダーを告げると彼女はすぐに店の奥へと戻って行った。
「……」
「………」
沈黙。
重苦しい雰囲気。
僕から話し出すことは正直ない。
何を話していいのかさえ分からないし。
そんな僕の思いを感じ取ったのかあの人のほうから話を始めた。
「久しぶり……だな。でも、昔の面影がまだあって、すぐに慶太だと分かったよ」
「………」
「ぁ……いやな、その…」
「…どうしてですか?」
「…は?何が…だ?」
「どうして僕があそこにいると分かったんですか?」
ずっと不思議に思ってたことだ。
この人に分かるはずがないこと。
『母親』にだって分かるはずはない。
「あ…あぁ。それは…。お前の母親にな、連絡を取ったんだよ。…てっきりお前はまだあいつと一緒だと思って…な」
「……」
「なのに、あいつもお前の居所を知らないと言い出して。…初めて…知ったよ。あの後のことを」
「……それで?」
「それで、前の家の近所の人に話を聞いて、施設のことを知って。……高校と同時にそこも出たんだってな?で、高校に行って…大学がわかった」
「そう…ですか」
なるほど。そういうことか。
『父親』だと言えば進路先ぐらい教えてしまうのかもしれない。
「知らなかったよ。まさかお前が…あんな…」
「……そう…ですか」
「知らずに俺は、お前が二十歳になるまであいつに金を振り込んでいたんだ」
あぁ。目的はそれなんだ。
「お金…ですか?」
「え?」
「いもしない僕のためにずっとお金を払い続けた。そんな価値もない僕のためにお金を払い続けた。そう言いにきたのですか?」
「いや…違…」
「知らなかったということは関心がなかったということでしょう?ずっと金さえ送ってれば自分の役目は果たせていると思ってたからでしょう?」
「慶太…俺は」
「でもその金は実際僕には使われておらずあの人が使い続けていた。それが気に障ったんですか?」
「そうじゃないんだ…ちょっと話を聞いてくれないか?」
「だったら返します。一生かかってでも返します。全額返しますよ!」
大声を上げてしまい、わずかな客ではあるが視線を感じる。
でもそんなこと関係ない。
「だから…だから、もう来ないでください。お金はちゃんと払いますから」
僕は伝票を握ってそこを後にした。
聞かなきゃよかったんだやっぱり。
惨めだ。惨め過ぎる。
「慶太ごめんな。父さんが悪かった。許して欲しい。本当は会いたかったんだよ」
そんなドラマのような展開を期待していたわけではない。
でもこんなのって。
僕の価値って何なの?
捨てておきながら金を要求しに来る親から生まれた僕って何?
何なの?
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