僕は本当に幸せでした〜刹那の向こう 君と過ごした日々〜

エル

文字の大きさ
上 下
184 / 327
大学生編

8

しおりを挟む

「………」

「おい、慶太…」

「……」

「慶太!」

「ぁ、ごめん!なんか言った?」

「いや、なんも言ってねぇけどさ。お前、ボーっとしてたぞ?それになべ吹いてる」

「うわぁ!」


そう言われてコンロの上に目をやると、なべが危うく吹き零れようとしていた。

今日は寒いから水炊きにしようと思って火にかけていたんだった。

急いで火を弱火にする。


「どうかしたのか?」

「なにが?」

「いや、お前があんななの珍しいしさ。しかも眉間に皺寄ってたぞ」

「ほんと?」

「あぁ。なんかあったか?」

「………」

「慶太?」

「…ううん、なんでもないよ。ちょっと研究の事でね」

「…そっか」


本当は研究のことなんかじゃない。

もっと他に気になることがあるんだ。


やはりあの時の感じた違和感は気のせいじゃないみたい。

どうも最近たまに見られてる気がするんだ。


毎日毎日というわけじゃないし。

実際何の被害とかも出てないし。

あの視線に嫌な感じはしない…様な気がしなくもなくもないし。


ちらりと玲人の顔を見る。


「ん?やっぱなんかあんの?」

「いや、違うよ!ご飯できた」

「まじ?食おうぜ」

「うん、玲人ポン酢だよね?」

「あぁ。でもゴマだれも欲しいかも」

「ホント?作っといてよかった」


野菜やらお肉やらがたくさん入ったなべを玲人がテーブルに運んでくれる。

僕はそのツケだれを運ぶだけ。

「うまそう」とつぶやく玲人の背中をじっと見る。


(玲人には言わなくてもいいよね。もしかしたら本当に僕の勘違いかもしれないし。うん。)


よし、とポン酢とゴマだれをテーブルに置く。


「食べよ?」

「だな」

「野菜も食べてね、ちゃんと」

「分かってるっつーの」

お肉やお魚ばかりに手をつける玲人の器に僕は野菜もいれてあげる。


僕はあまり真剣に考えてなどいなかった。

あの視線の正体に。

だから玲人に相談する事もなかった。


先に言っていればよかったのかもしれない。

あとになってそう思う。


「ちょっと、玲人。野菜よけちゃダメ」

「……後で食う」

「うそ、分かってるんだからね?」

「…チッ」



それが分かるのは本当にもうすぐのこと。



しおりを挟む
感想 104

あなたにおすすめの小説

別に、好きじゃなかった。

15
BL
好きな人が出来た。 そう先程まで恋人だった男に告げられる。 でも、でもさ。 notハピエン 短い話です。 ※pixiv様から転載してます。

さよならの合図は、

15
BL
君の声。

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。 1日2話ずつ投稿します。

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

その日君は笑った

mahiro
BL
大学で知り合った友人たちが恋人のことで泣く姿を嫌でも見ていた。 それを見ながらそんな風に感情を露に出来る程人を好きなるなんて良いなと思っていたが、まさか平凡な俺が彼らと同じようになるなんて。 最初に書いた作品「泣くなといい聞かせて」の登場人物が出てきます。 ※完結いたしました。 閲覧、ブックマークを本当にありがとうございました。 拙い文章でもお付き合いいただけたこと、誠に感謝申し上げます。 今後ともよろしくお願い致します。

彼の理想に

いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。 人は違ってもそれだけは変わらなかった。 だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。 優しくする努力をした。 本当はそんな人間なんかじゃないのに。 俺はあの人の恋人になりたい。 だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。 心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。

紹介なんてされたくありません!

mahiro
BL
普通ならば「家族に紹介したい」と言われたら、嬉しいものなのだと思う。 けれど僕は男で目の前で平然と言ってのけたこの人物も男なわけで。 断りの言葉を言いかけた瞬間、来客を知らせるインターフォンが鳴り響き……?

僕は君になりたかった

15
BL
僕はあの人が好きな君に、なりたかった。 一応完結済み。 根暗な子がもだもだしてるだけです。

処理中です...