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大学生編
8
しおりを挟む「………」
「おい、慶太…」
「……」
「慶太!」
「ぁ、ごめん!なんか言った?」
「いや、なんも言ってねぇけどさ。お前、ボーっとしてたぞ?それになべ吹いてる」
「うわぁ!」
そう言われてコンロの上に目をやると、なべが危うく吹き零れようとしていた。
今日は寒いから水炊きにしようと思って火にかけていたんだった。
急いで火を弱火にする。
「どうかしたのか?」
「なにが?」
「いや、お前があんななの珍しいしさ。しかも眉間に皺寄ってたぞ」
「ほんと?」
「あぁ。なんかあったか?」
「………」
「慶太?」
「…ううん、なんでもないよ。ちょっと研究の事でね」
「…そっか」
本当は研究のことなんかじゃない。
もっと他に気になることがあるんだ。
やはりあの時の感じた違和感は気のせいじゃないみたい。
どうも最近たまに見られてる気がするんだ。
毎日毎日というわけじゃないし。
実際何の被害とかも出てないし。
あの視線に嫌な感じはしない…様な気がしなくもなくもないし。
ちらりと玲人の顔を見る。
「ん?やっぱなんかあんの?」
「いや、違うよ!ご飯できた」
「まじ?食おうぜ」
「うん、玲人ポン酢だよね?」
「あぁ。でもゴマだれも欲しいかも」
「ホント?作っといてよかった」
野菜やらお肉やらがたくさん入ったなべを玲人がテーブルに運んでくれる。
僕はそのツケだれを運ぶだけ。
「うまそう」とつぶやく玲人の背中をじっと見る。
(玲人には言わなくてもいいよね。もしかしたら本当に僕の勘違いかもしれないし。うん。)
よし、とポン酢とゴマだれをテーブルに置く。
「食べよ?」
「だな」
「野菜も食べてね、ちゃんと」
「分かってるっつーの」
お肉やお魚ばかりに手をつける玲人の器に僕は野菜もいれてあげる。
僕はあまり真剣に考えてなどいなかった。
あの視線の正体に。
だから玲人に相談する事もなかった。
先に言っていればよかったのかもしれない。
あとになってそう思う。
「ちょっと、玲人。野菜よけちゃダメ」
「……後で食う」
「うそ、分かってるんだからね?」
「…チッ」
それが分かるのは本当にもうすぐのこと。
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