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大学生編
3
しおりを挟む一緒に暮らし始めてからもうずいぶん経つけど、今でも続く約束事が二つだけある。
きっと僕はこれがあるから今でも玲人のそばにいることができるのだと、そう思うんだ。
一つ目は、ここは『僕ら』の家だということ。
あれは大学に入って何度目の事だったのだろう。
そのときのお相手は女の人だった。
珍しく自己表示欲の強い人だったらしくて、玲人のいたるところから彼女の存在を匂わせるものを僕は見つけた。
玲人のポケットからは彼女のものらしきピアスが出てくる。
家の電話にまでかけてきて。
あまりのことに僕はつい尋ねてしまったんだ彼女の事を。
そしてお決まりのセリフ。
「じゃあさ、別れる?……無理だろ?」
「…ん」
「あんな女のことなんか気にすんな。単なる遊びなのにいちいちうぜぇから」
「ん、ごめん。……ね、玲人。一つだけ、お願いがあるの」
「あ?」
「ここには、連れて来ないでね?」
「…は?」
「お願い。ここには連れて来ないで」
あまりに必死だった僕に根負けしたのだろう。
玲人はため息を一つだけついた。
そして「分かった」とポツリとつぶやく。
僕の言い出した約束。
これが一つ目。
玲人はこれを守ってくれていると思う。
二つ目の約束。
これは玲人が一緒に住もうと言い出したときに自分から僕に言ったこと。
「夕飯は一緒に食べる」
今も守られてる事。
夕飯だけは絶対に二人で食べるんだ。
遅くなるときは玲人の帰りを待って一緒に食べる。
普通の時間のときは一緒に食べて玲人は出かけていく。
僕が玲人に合わせてるから。
そう言われてしまえばどうしようもない事だけど。
でも。
とても大切な時間。
これだけは変わることはない。
そしてこれがほんのわずかだけ僕の中に残っている自信に繋がっていた。
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