僕は本当に幸せでした〜刹那の向こう 君と過ごした日々〜

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大学生編

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二人で過ごす時間は時が経つのに比例してがくりと少なくなっていく。

そしていつからか、また僕は例の兆候を感じるようになった。


僕たちが使っているのとは違うボディソープの香り。

香水の香り。

そして、タバコのにおい。


また始まったのだと分かる。


僕が大切にしないといけないのは二人の時間。

玲人の時間は玲人のもの。

僕が勝手に入っていいものではない。

ここに、この部屋に玲人が帰ってきてくれればいい。

僕のところに帰ってきてくれさえすればいいんだ。


そんな諦めにも似た思いを僕はいつしか抱くようになってた。

だって僕は前以上にとても臆病になっていたから。


浮気に関して口にすると度々玲人から出るようになった言葉がある。


『じゃあ別れる?』


僕の答えは決まってこれだ。


『無理だよ』


あんなに、あの時はあれほど別れようと思っていたのに。

今ではその思いは微塵も残ってはいなかった。


僕の答えを聴くたびに玲人がうれしそうに見えるのはもうきっと気のせいなんだ。


ねぇ玲人。

君にとって僕はなんなんだろうね。

こうやって一緒に暮らしてさえいるのに。

きっと、性欲処理込みの家政婦くらいにしか思ってないのかな。


高校から大学に変わったとき。

季節が変わるたび。

記念日が来るたび。

学年が変わるたび。


「もしかしたらこれを機に…」


何度も何度もそう思った。

期待した。

切望した。


そのたびに裏切られた。


いつまでこの関係が続くのだろう。

そう思わないこともない。


でも、考えたって今の僕にはもう答えは出せない。

だから僕は考えないようになっていた。



こうしているうちに、僕らが出会ってからもう六年が経っている。

君と過ごす七度目の冬がやってくるよ。

そして僕らの六年目の記念日ももうすぐだね。


まだ君は覚えていてくれますか?

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