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過去~高校生編2
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しおりを挟む「あの…あのね、玲人」
「…なに?」
ドクドクドク、鼓動が音になって聞こえそうだ。
気持ち悪い。
こんなに気分が悪くなるほど緊張する事なんてない。
「あの、僕。話があって……聞いて欲しい事が…」
「ちょっと待った!待って、慶太」
今まさに口から出ようとした言葉。
『僕たち別れよう』
そう言い出す前に玲人に制止されてしまった。
「あの、俺もさ。…話あるんだよ」
「…玲人の…話?」
「ああ」
「……」
なに。玲人も僕に言いたい事があるって。
全然予想してなかった。
「言いたい事がある。……でも、今は言えない」
「どうし…て?」
「誕生日。もうすぐお前誕生日だろ?」
「……」
「その日に絶対言うから。だから…お前も、それまで言いたい事とっといてくれよ」
「ぇ…でも、僕。今日言うって…決めて…」
「頼むから。…誕生日、一緒に過ごそう?」
「…僕…」
「な?…あとちょっとじゃん。だから…いいだろ?な?」
掴まれた肩があまりに痛くて。
玲人の目があまりに真剣で。
僕に懇願する声があまりに痛々しくて。
僕は頷いてしまった。
昨日あれほどなんて言おうか考えたのに。
怖くて泣きそうで辛くて、眠れなかったのに。
今日終わるべき僕らの関係は少しだけその寿命が延びてしまった。
「は。…そっか。誕生日…楽しみにしてるから、俺。後…これ。なんかすっげぇ恥ずかしいんだけどさ…」
「玲人…これ…」
玲人は僕の手をとり、あるものを渡される。
「ベタだけどさ。ま、高校の思い出って言うの?二度と制服なんか着ねぇだろ。だから…これは慶太に」
「だってこれ……隠してたの?」
「まぁな。…やべぇ。なんか俺のキャラじゃねぇよな、マジで。でもそれ、ちゃんと二番目のだから」
そう。
今僕の手にあるのは玲人の制服の第二ボタン。
あっちゃん同様一つもボタンの残ってない上着を羽織ってるからてっきり誰かに持っていかれたものだと思ってた。
「本当はさ、くれって言われるの待ってたんだけど。お前言わないから」
だって本来ならば今頃別れの言葉を言ってるはずだったから。
もらえるなんて思ってなかったんだよ。
「それ、慶太のな」
「……ありがと」
うれしい。
でも、すぐ返す事になるね。
だからちょっとの間だけ、預からせて?
ほんの短い期間だけ、他の誰でもない僕にくれたんだという幸福感に浸らせてもらうよ。
うん。
来週の僕の誕生日までね。
本日の予定。
卒業式。
決行。
別れ。
延期。
次回予定。
僕の誕生日。
残り約一週間。
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