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過去~高校生編2

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ーside 桐生玲人ー


慶太を引き止める方法を探すために、俺は片っ端から自分の出来る事をやってみる。

みっともないと思われたっていいんだ。


二月に入って考えたのはバレンタインのこと。

去年はそんなの少しも思い出すことなんてなかったのに、今年はすぐに頭に浮かんだ。

どうも今年は慶太の方が忘れてるみたいだ。

これだけ受験に没頭してれば仕方のないことだが、やはり覚えていて欲しいと思う自分がいる。

自分の事は棚にあげて本当に勝手だ。


二年前のことを思い出す。

二人して同じような事考えて。

俺は普段しもしない料理を必死でやって。

慶太はその辺のケーキ屋顔負けのチョコレートケーキを焼いてくれて。

二人で食って、笑って。

最後にキスをした。

初めての深いキスを。

あいつ、息の仕方も知らなかったっけ。

少しだけ思い出し笑いをしてしまう。


バレンタイン前日。

本当ならこんな事などしている場合じゃないだろうが、俺は一日かけて料理を作った。

ケーキも焼いてみた。

少し焦げたものの、まぁ、食えるだろう。


当日。

いつも通り図書館へ向かう道の途中で俺は慶太に話を切り出す。

何とか説き伏せて俺んちへ連れて行き、料理とケーキを見せた。

やっぱり忘れてたんだな。

でもすぐ思い出したようでひどく申し訳なさそうな顔をした。


「気にするな」と一緒に料理に手をつける。

また同じような時間が過ごせると思った。


なのに。


慶太は泣いた。

ボロボロと瞳から涙がとめどなくあふれ出る。


目の前で震えながら涙をこぼす慶太を俺は抱きしめる事しかできなかった。


お前が最後に泣いたのを見たのはいつだっけ?

あ、慶太の十六回目の誕生日だ。

鍵を渡したら『嬉しい』と泣いたんだよな?


あの涙は「嬉しい」涙。

じゃあ、これはなんだ?

その意味を図りかねる。


これがあの時と同じ涙ならどれだけいいだろう。

そしたら俺はお前を手放さなくてすむのに。


二年以上もお前と一緒にいるのに。

肝心なときに俺は、お前のその涙の意味が分からないんだよ。


こんなの「偽物」の幸せだ。ほんの一時だけだ。

そう思って泣いてるのか?


でもそれはそうだよな。

これはつかの間の安らぎ。

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