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過去~高校生編2
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しおりを挟む五月、六月、七月。
夏休みになりみんなが塾に講習に行きだす中、僕はひたすら自分で勉強に取り組んでいる。
家だともったいなくて冷房つけられないから近くの空調のよくきいた図書館に毎日足を運ぶ。
八月に入ったころ、玲人にまた去年と同じ場所に旅行に行こうと誘われた。
気晴らしにいいかもしれない、とOKする。
勉強の事など一切忘れて二人でただ楽しむだけの二泊三日。
プラス僕は玲人の不貞も忘れて。
去年もそうだったように、この間だけは僕らのことを誰も知らない土地で玲人の事を独り占めできる。
それが終わり家に帰ってきてしまえば結局また元通りだけれど。
あの玲人の誕生日以来、僕は抱かれるときにはいつもあのお願いをする。
少し嫌そうな顔をしながら玲人はそれを聞いてくれる。
その嫌そうな顔が、浮気と同じくらい僕の心にはしんどい。
今日はなぜか玲人が僕の家に来て二人で勉強して。
そしたらそんな雰囲気になって。
「ん…あっ…玲人…ゴム…」
「今日はいいだろ?」
「っ…ぁ…ダメ。…つけてっ」
「今日だけ…な?」
「ダメだって…あっ。じゃないと…しない」
そう言って僕は玲人の胸を突っぱねた。
次の瞬間つぶやかれた玲人の言葉に僕は凍りつくこととなる。
「はぁ……面倒くせぇ。…もうねぇから、買ってくる」
玲人は上着を引っ掛けて家を出て行った。
『面倒くせぇ』
そう言われた。
鬱陶しがられないように。
疎ましがられないように。
そう思って、我慢して我慢して我慢して。
なのに、僕のしたたった一つのお願いにさえ面倒くさいと言われる。
そんなにダメなの?
僕にはこんな事でさえ君にお願いする事は出来ないの?
だったら。
ここが限界なのかもしれない。
僕のというよりは、僕と玲人の限界。
そう悟る。
戻ってきた玲人に僕は何もないかのように抱かれ、そして残りの夏休みも普通にふるまった。
そして九月。
始業式が終わって解散になるなり僕は職員室に担任を訪ねて行った。
「あの先生……僕、話が…」
「水野か。どうした?」
「先生僕……」
「なんだ?」
「僕、T大に行きます。S大ではなくT大に志望を返させて下さい」
自分の決心をはっきりと担任に伝えた。
高校三年生。
二学期の始まる夏の終わり。
僕は別れを決意する。
二人で過ごす時間。
残り半年とちょっと。
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