146 / 327
過去~高校生編2
50
しおりを挟む五月、六月、七月。
夏休みになりみんなが塾に講習に行きだす中、僕はひたすら自分で勉強に取り組んでいる。
家だともったいなくて冷房つけられないから近くの空調のよくきいた図書館に毎日足を運ぶ。
八月に入ったころ、玲人にまた去年と同じ場所に旅行に行こうと誘われた。
気晴らしにいいかもしれない、とOKする。
勉強の事など一切忘れて二人でただ楽しむだけの二泊三日。
プラス僕は玲人の不貞も忘れて。
去年もそうだったように、この間だけは僕らのことを誰も知らない土地で玲人の事を独り占めできる。
それが終わり家に帰ってきてしまえば結局また元通りだけれど。
あの玲人の誕生日以来、僕は抱かれるときにはいつもあのお願いをする。
少し嫌そうな顔をしながら玲人はそれを聞いてくれる。
その嫌そうな顔が、浮気と同じくらい僕の心にはしんどい。
今日はなぜか玲人が僕の家に来て二人で勉強して。
そしたらそんな雰囲気になって。
「ん…あっ…玲人…ゴム…」
「今日はいいだろ?」
「っ…ぁ…ダメ。…つけてっ」
「今日だけ…な?」
「ダメだって…あっ。じゃないと…しない」
そう言って僕は玲人の胸を突っぱねた。
次の瞬間つぶやかれた玲人の言葉に僕は凍りつくこととなる。
「はぁ……面倒くせぇ。…もうねぇから、買ってくる」
玲人は上着を引っ掛けて家を出て行った。
『面倒くせぇ』
そう言われた。
鬱陶しがられないように。
疎ましがられないように。
そう思って、我慢して我慢して我慢して。
なのに、僕のしたたった一つのお願いにさえ面倒くさいと言われる。
そんなにダメなの?
僕にはこんな事でさえ君にお願いする事は出来ないの?
だったら。
ここが限界なのかもしれない。
僕のというよりは、僕と玲人の限界。
そう悟る。
戻ってきた玲人に僕は何もないかのように抱かれ、そして残りの夏休みも普通にふるまった。
そして九月。
始業式が終わって解散になるなり僕は職員室に担任を訪ねて行った。
「あの先生……僕、話が…」
「水野か。どうした?」
「先生僕……」
「なんだ?」
「僕、T大に行きます。S大ではなくT大に志望を返させて下さい」
自分の決心をはっきりと担任に伝えた。
高校三年生。
二学期の始まる夏の終わり。
僕は別れを決意する。
二人で過ごす時間。
残り半年とちょっと。
24
お気に入りに追加
242
あなたにおすすめの小説
友人とその恋人の浮気現場に遭遇した話
蜂蜜
BL
主人公は浮気される受の『友人』です。
終始彼の視点で話が進みます。
浮気攻×健気受(ただし、何回浮気されても好きだから離れられないと言う種類の『健気』では ありません)→受の友人である主人公総受になります。
※誰とも関係はほぼ進展しません。
※pixivにて公開している物と同内容です。
君が僕を見つけるまで。
いちの瀬
BL
どんな理由があっても、僕はもうここを去るよ。
2人の思い出が詰まったこの家を。
でもこれだけは信じてくれるかな。
僕が愛してたのは君だけだ。ってこと。
浮気攻め×健気受け なのかなぁ?もう作者にも結末、cpわかりませんw
浮気されてもそばにいたいと頑張ったけど限界でした
雨宮里玖
BL
大学の飲み会から帰宅したら、ルームシェアしている恋人の遠堂の部屋から聞こえる艶かしい声。これは浮気だと思ったが、遠堂に捨てられるまでは一緒にいたいと紀平はその行為に目をつぶる——。
遠堂(21)大学生。紀平と同級生。幼馴染。
紀平(20)大学生。
宮内(21)紀平の大学の同級生。
環 (22)遠堂のバイト先の友人。
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。
全17話、約6万文字。
【doll】僕らの記念日に本命と浮気なんてしないでよ
月夜の晩に
BL
平凡な主人公には、不釣り合いなカッコいい彼氏がいた。
しかしある時、彼氏が過去に付き合えなかった地元の本命の身代わりとして、自分は選ばれただけだったと知る。
それでも良いと言い聞かせていたのに、本命の子が浪人を経て上京・彼氏を頼る様になって…
生まれ変わりは嫌われ者
青ムギ
BL
無数の矢が俺の体に突き刺さる。
「ケイラ…っ!!」
王子(グレン)の悲痛な声に胸が痛む。口から大量の血が噴きその場に倒れ込む。意識が朦朧とする中、王子に最後の別れを告げる。
「グレン……。愛してる。」
「あぁ。俺も愛してるケイラ。」
壊れ物を大切に包み込むような動作のキス。
━━━━━━━━━━━━━━━
あの時のグレン王子はとても優しく、名前を持たなかった俺にかっこいい名前をつけてくれた。いっぱい話しをしてくれた。一緒に寝たりもした。
なのにー、
運命というのは時に残酷なものだ。
俺は王子を……グレンを愛しているのに、貴方は俺を嫌い他の人を見ている。
一途に慕い続けてきたこの気持ちは諦めきれない。
★表紙のイラストは、Picrew様の[見上げる男子]ぐんま様からお借りしました。ありがとうございます!
【運命】に捨てられ捨てたΩ
諦念
BL
「拓海さん、ごめんなさい」
秀也は白磁の肌を青く染め、瞼に陰影をつけている。
「お前が決めたことだろう、こっちはそれに従うさ」
秀也の安堵する声を聞きたくなく、逃げるように拓海は音を立ててカップを置いた。
【運命】に翻弄された両親を持ち、【運命】なんて言葉を信じなくなった医大生の拓海。大学で入学式が行われた日、「一目惚れしました」と眉目秀麗、頭脳明晰なインテリ眼鏡風な新入生、秀也に突然告白された。
なんと、彼は有名な大病院の院長の一人息子でαだった。
右往左往ありながらも番を前提に恋人となった二人。卒業後、二人の前に、秀也の幼馴染で元婚約者であるαの女が突然現れて……。
前から拓海を狙っていた先輩は傷ついた拓海を慰め、ここぞとばかりに自分と同居することを提案する。
※オメガバース独自解釈です。合わない人は危険です。
縦読みを推奨します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる