僕は本当に幸せでした〜刹那の向こう 君と過ごした日々〜

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過去~高校生編2

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ーside 桐生玲人ー

慶太の誕生日当日。

俺は早めに家を出てから去年と同じケーキ屋に寄り、慶太がおいしいと言って食べていたケーキをいくつも買う。


あいつのアパートへ行くと慶太はどうも俺が来ないと思っていたらしく、何も用意はされてなかった。

紅茶とケーキだけ。

去年とは全然違う。

敦もいねぇし。


『解放してやれ』


振り払ってもついて回るあいつの言葉。

でもそれも今日までだ。


ケーキに手をつけて少ししてから俺は慶太にプレゼントを渡す。


開けるように促すと無言で包みをとる慶太を俺は見つめた。

一体どういうリアクションをされるのだろうか。

緊張からごくりと生唾を飲んだ。


ふたを開け中身を確認する慶太。

反応は薄い。

泣きもしなければ笑顔でもなかった。


嬉しくないのかもしれない。


そんな考えを打ち消すようあいつの手をとり薬指にはめようとする。


でも、はまらなかったんだ。

指輪があまりにでかかった。


いや、違う。慶太の指が細くなったんだ。

だって、去年なら絶対薬指にぴったりだったから。


俺があいつに渡したのは去年渡す事ができなかった指輪。

一年間ずっと俺の部屋で眠っていた指輪。

去年の慶太の指のサイズだ。


こんなに。

こんなに細くなってしまったのか。


「お前が俺のだという証」

そう言って中指にはめてやる。


またお前の事をこれで縛り付けるんだ。

今度はちゃんと目に見える形でもっと強く。


『解放してやれ』


そんなのできねぇ。

手放すなんて出来るかよ。

離し方なんて分かんねぇんだよ。



「慶太……抱いていいか?」

「……」

「いいよな?」

「………ん」


昼間から抱き合う俺ら。

日の光がカーテンの隙間から漏れて慶太の全てが見える。


一年前とは違った抱き方をする俺。

そして一年前とは違った反応をする慶太。

思いきり奥を穿てば甘い声があがる。


愛してる。

愛してる。


愛してる。


ごめんな。


楽になんてしてやれないよ。

楽になんてなりたくないんだ。


この翌日、また俺は違う女を抱いていた。

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