僕は本当に幸せでした〜刹那の向こう 君と過ごした日々〜

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過去~高校生編2

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ーside 水野慶太ー


絶対に来る、玲人はそう言ったけど本当に来てくれるのだろうか?


とうとう二年生も終わってしまった。

四月から受験生になってしまうんだ、僕たちは。


そして今日、三月二九日。

僕の誕生日。

玲人の言葉を信じて待ってみようと思った。

でも心のどこかでは彼は来ないと分かってるんだ。


なのに、玄関の呼び鈴が鳴った。


「よっ。…誕生日おめでとう、慶太」

「玲人…ありがと…」


(約束守ってくれたんだ。)


「これ…お前の好きなやつ。いっぱい買ったから後で食おうぜ?」

「ん……食べる」


買ってきてくれたケーキは去年と同じお店のもの。

僕がおいしいおいしいと欲張っていくつも食べた事、憶えていてくれたの?


料理も何も用意してなくて僕はお茶だけをいれる。

そしてテーブルの上にはいくつものケーキ。


「玲人…食べていい?」

「もちろん。…俺が取ってやるよ。お前これだろ?」

「…ありがと」


なんで?

本当に憶えてるんだね?

僕が一番好きなヤツ。


「じゃあ、慶太。十七歳、おめでとう」

「玲人、ありがとね」


去年のようにシャンパンではないけど紅茶で乾杯。

口に入れたケーキの味は去年と同じ味でなんだか胸が苦しくなった。


ケーキの味は変わらない。

でも僕らの関係は変わってしまった。

このアンバランスさがなんだか僕を苦しくさせたんだ。


「慶太これ。プレゼント」


「開けてみて」と促されて僕はドキドキしながら包装紙を剥がした。

決して嬉しい胸の高鳴りではない。

むしろ不安な。

なんだろう。

ちょっとだけ開けたくない。


「…っ…これって」


中から出てきたのは小さな箱。

カパっとそのふたを取ると。


「指…輪?」


少し太めの、でもそんなにゴツゴツとした重圧感はないプラチナのリング。


「貸してみ?俺がつけてやる」

僕の手から指輪を取り、そして僕の右手を握った。


「さすがに左じゃあからさまだろうからさ。…右ならいいよな?」

そう言って右手の薬指に指輪をはめようとする玲人。

でも。


「あっ、わりぃ。ちょっと、でかかったな…」

僕の薬指には大きすぎてするすると抜けていく。

仕方ない、と中指にそれをはめた。


「慶太は俺のだから。その証。…な?」

「………うん」


僕は玲人のもの。
でも、玲人は僕のものじゃないよね?


玲人の指には指輪がされておらず、それがペアリングじゃない事を悟る。


ほんの数グラム。

でもすごく重い。

これは指輪という名の鎖だ。

しかも一方向の。

玲人からだけ出てる鎖。

僕のことをがんじがらめにする。


高二の終わり。

春の始まり。


僕は完全に囚われてしまう。

もう、どこにも行けない。


行くところなどないけれど。


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