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過去~高校生編2
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しおりを挟む-side 日比野敦-
深夜、それも一時過ぎ。
寝ていたところをチャイムに起こされた。
一瞬無視してやろうという思いが頭に浮かんだが、それでもインターフォンのあるリビングへ眠い目擦りながら行った。
せっかく出たのに誰も答えやしない。
こんな夜中にいたずらかよ、とまた部屋に戻ろうとしたときに「まさか…」と思ったんだ。
(慶太じゃないか?)
着てるものなんて気にせずに鍵だけ握り締めて部屋を飛び出した。
エレベーターが来るのを待っていられなくて階段を駆け下りる。
エントランスを飛び出してきょろきょろとあたりを探した。
そして、少し離れた角を曲がろうとしてる人の姿を見つけた。
すぐに慶太だと分かった。
駆け寄って捕まえてみると、慶太は寒さで口もまめらず、それなのに握り締めてたコートをおずおずと俺に差し出してきた。
「これを返すために来た」と。
受け取ったときに偶然慶太の手に触れる。
本当に芯まで冷え切っていて氷のような冷たさだった。
きっと鳴らせなかったんだ。
チャイムを鳴らせずこんな寒い中ずっとあんなところで立って……
それからすぐに部屋に連れてって、暖かいものを飲ませてから風呂にも入れ、帰るという慶太を軽く強引に泊まってくように説得した。
玲人の事はあえてお互い口に出さない。
暗黙の了解、とでも言うのだろうか。
俺だってわざわざ確認しなくたってなぜ慶太が記念日の明けた深夜に俺のところへ来たのかくらいわかるさ。
あいつは、『ごめん』と『ありがとう』しか言わなかった。
一緒のベッドで俺に背を向けて決して俺にくっつこうとはしなかった慶太。
冗談交じりに「俺が兄貴になってやる」っていったら「無理しないで」と返された。
そしてまた「ごめん」と。
なにを意味するのか分かってしまったんだ。
「ごめん」というのは俺のほうなのに。
「苦しい」という慶太をずっと抱きしめて俺たちはそのまま眠った。
ずっと抱きしめていたはずなのに、目が覚めた時には俺の腕の中に慶太はいなかった。
ベッド脇のサイドボードに一枚の紙切れ。
「帰ります。ごめんね。あと、ありがと。慶太。」
お前は最後まで『ごめん』と『ありがとう』なんだな、慶太。
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