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過去~高校生編2
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しおりを挟む帰ろうか。
あの真っ暗な部屋に。
冷めきった料理の残骸が残る部屋に。
トボトボとマンションから遠ざかろうとした。
でも、後ろからぐいっと力強く引っ張られる。
「ハァハァ…やっぱ、慶ちんだった…ハァ…」
走ってきてくれたんだろう。
しかもスウェットで。
「もしかしたらと、思って…ハァ…よかった…間に合った」
「あっちゃん…あの…僕、これ…返そうと思って………ごめんなさい…」
ずっと握りしめてたせいで少しだけしわくちゃになってしまったあっちゃんのコートを差し出す。
無言でそれを受け取るあっちゃん。
渡したときに手が触れてしまって、慌てて引っ込めようとしたけどすぐさまその手をとられる。
「なんで…こんな。…バカ。ずっと鳴らせなくてあそこにいたんでしょ?」
寝起きのあっちゃんの手はすごくあったかくて、その両手で包み込むように握られると極限まで冷たくなってしまった僕の手はやけどしそうな感じがする。
「…ごめんね?……あっちゃん…来ちゃってごめんなさい」
「謝ってばっかだな、慶ちんは。ほら…おいで?部屋入ろう?」
繋がれたままの手。
あっちゃんに引っ張られてそのままさっき出たばかりのマンションへと向かった。
「もっと早くに鳴らせばいいのに。慶ちん…しかもそんな薄着で。なんでコート着てないんだよ。持ってんなら羽織れよ。今すぐ風呂沸かすから。…沸くまでなんか温かいもんでも」
僕よりもあせってて、一人でまくし立てるあっちゃんがなんかおかしい。
しかもちょっといつもと話し方違うし。
羽織れよ、だって…。
「ふふっ」
「どうした?何笑ってんの?あんまり寒かったから…」
「違う。僕はちゃんとまともです」
「あ、そう?よかった、俺…てっきりあっちの世界が見えたのかと…」
慌て過ぎだから。
あっちの世界って大体なに?
「はい、これ飲んで。熱いから気をつけて?」
「ありがと…」
渡してくれたのは蜂蜜たっぷりのホットミルク。
その暖かさと甘さが僕の凍りついた身体を溶かしてくれる。
「熱っ!…でも…おいしい。…ありがと」
「慶ちん、さっきからありがととごめんばっかりだよ?」
「ごめん…ぁ」
「ほら!」
そして同時に吹き出す。
大きな声を上げて、大げさに。
本当はそれほど面白いわけでもない。
でも、僕たちはそうした。
「あ!風呂沸いた。着替え出しとくから入っておいで?」
「僕…大丈夫。もう、帰るから…」
「なに言ってんの?ほら入って。今日は泊まりな?」
な?、とちょっと切羽詰ったような目をしたあっちゃんに僕はうんと頷かずにいられなかった。
「じゃ…お風呂入らせてもらうね?…ありがと」
「お礼はもういいから。ほら行って!」
追い払うようにお風呂場へとやられてしまった。
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