僕は本当に幸せでした〜刹那の向こう 君と過ごした日々〜

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プロローグ side玲人

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「ここは僕と玲人の家だよね?」

「何でこの家に呼んだりしたの?」


久々に慶太が自分の思いをぶつけてきてくれたにもかかわらず、俺はそれに対する高揚感とやりきれないイラつきからこう吐き捨てた。


「んじゃさ、別れる?」


別れられるはずなんてない。

慶太が俺から離れるはずない。

あいつには俺しかいないのだから。


自分でも無意識のうちに口元が緩みにやけていた。


慶太がどんな気持ちで俺の言ったことを聞いていたのか。

どんなに頑張って自分の思いを口にしたのか。

ここが慶太にとってどれほど大事な場所だったのか。


俺は、そんなこと。

全く分かっちゃいなかった。


「別れるなんてできないよ」

と来るはずだったのに、慶太から出た言葉は「それもいいかもね」だった。


今、何て言ったんだ?


俺の横をスッと通りすぎるあいつの肩を抱き寄せたいのに。

玄関から出ようとするあいつに駆け寄りたいのに。


指一本さえも動かすことが出来ないでいる。




………ザァ…

雨の音がする。


なぁ、慶太。

雨が振りだしたぞ?


窓にぶつかる雨の音が激しくなる。


なぁ、慶太。

濡れるから早く帰ってこいよ。


カーテンの隙間から真っ暗な空を見上げる。


なぁ、慶太。

あの頃に戻れたらいいのにな。


そしたら俺に言ってやるんだ。

慶太を泣かせるな。大事にしろって。


なぁ、俺はどこで間違ったんだろう。

俺の気持ちはあの頃と何も変わってはいないのに。


なぁ、慶太。

お前は俺に誰かを守りたいと言う強さをくれた。

愛する人に愛される快楽をくれた。

愛する人を裏切る狡さをくれた。

そして。

一人を愛すると言う恐怖をくれた。


なぁ、慶太。

お前を愛してる。
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