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プロローグ side玲人

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「えっ…だれ?」


その声とあいつが追っている目の先に俺も視線を向ける。


「慶…太」


なんで。

なんで、慶太が。


血の気が引いたような、生気のない顔をした慶太がそこにはいて。

しっかりとその目に俺達の姿を映していた。


怒りも、悲しみも、何の感情も示していないその顔が一気に俺の心を冷やしていく。


言葉を発することなく寝室から出ていく慶太。



水野慶太。俺の恋人。

たった今恋人の浮気を目にした男。

今までもそうされ続けてきた男。

そしてきっとこれからも。



抱いていた男を急いで帰し、青臭い匂いのする体をシャワーで清め、慶太の元へ向かう。


「…」

「……」


沈黙。


何も言わない慶太。

涙も流しはしない。


慶太、お前は今何を考えているんだ?


「今日、早かったんだな…」


何か言葉を交わしたくて。

ただ声が聞きたくて。

とっさに出たのが、そんなつまらないことだった。


「連絡すればよかったね」


わずかに口角を上げ、無理矢理作ったぎこちない笑みでそう言われ心臓がひどく痛む。


何で泣かない?

殴ればいいだろ?


そうさせているには自分なのにイライラ感だけが募る。


自分の立場を守るためだけにそうする自分自身に吐き気がした。
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