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第九章.これはハッピーエンドですか?

ss.キーリー実家の場合

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 今度は、キーリーの実家に結婚の挨拶に行く。

 なんと、キーリーは、シャルルに出会って突発的に家出をし、それ以来、何の連絡もなく2年くらい帰っていないらしい。
 ジョエルの帰省不精を嘆いていたことがあったが、キーリーの方が上だった。家出って。捜索願いを出す機関はないようだし、そういう時は、どうするんだろう。家族は、めちゃくちゃ心配しているだろう。どこまでキーリーの家族とカウントするのかは、わからないが、街中みんなで心配してるに違いない。とりあえず、それを知ってすぐに手紙を書かせた。そして、帰省させるついでに、結婚の挨拶をすることにしたのである。

 キーリーの家は、どこだかわからないので、転移で行くことができない。ひとまず、キーリーとシャルルが知り合った街というのに、シャルルの魔法で連れてきてもらった。そこから家までは、そう遠くはないそうだ。
 そうそう、今回は、シュバルツは留守番だ。協調性もなく、トラブルしか起こさないシュバルツを連れて行くのは、辞めることにした。人数が多いのだし、一人くらい欠席でもいいじゃないか。キーリーとシュバルツは、多分、ラブラブじゃないと思うし。2年ぶりの家出後帰省にトラブルメーカーは必要ない。もう面倒臭くなったともいう。


 山の中だという、とても適当臭い説明を受けていた。
 そこで、谷間にある街を想像していたのだが、少し違った。実際は、山のふもとにあるそれなりのサイズの街のようなのだが、街の区画を森林伐採していない。家を建てる場所だけは木を避けて、道も庭も自然林になっていた。家は、石のレンガを積んで作られている。彩色もされておらず、とても自然に馴染むようで、どこまでも人工的な鋭角の建物だ。家によっては、とても細かい彫刻で飾られていた。
「こんなところを山の中だけで済ます、感性についていけないな」
「木生えっぱなしだぞ? 山ん中だろ。森ん中だったら、納得したか?」
「言い分はわかる。だが、違う。日本にこんなところがあったら、間違いなく一大観光地だって話だよ」
「なんでだよ。木なんて珍しくないだろ。勝手に生えてくんだぞ。もう喋ってねーで、とっとと歩け」
 流石、山ん中だった。どちらを向いても、坂道しかなかった。抱っこ申請を出したいくらいゲンナリするのに、ナデシコがまったく不満を漏らさないのだ。自分のダメさ加減を反省して、歩いた。


「これが、俺の母親だ」
 石が沢山並んでいる場所に来た。やっぱりそこら中が木だらけなので、まったくそんな気にならないが、墓地区画らしい。私は、魔法で適当な花を咲かせて生けて、手を合わせた。
「草むしりしたり、石みがきしたりしなくていいのかな」
「そうだな。そんな習慣は、聞いたこともない。強いて言うなら、その花もいらんが、まぁいいだろう」
「ごめんね」
 墓には花だと思っていた。私は、父の墓には、花しか持って行ったことがない。
「構わない。もしかしたら、母親は花好きで、喜んでいるかもしれないからな」
「お母さんのこと、あんまり覚えてないのかな?」
「覚えてないと言うか、まったく知らんな。俺だけならともかく、親父も覚えてないみたいだから、名前もわからん」
「え? お父さんまで覚えてないの?」
 キーリーは、小さかったから、といえば説明はつく。だが、お父さんは、結婚するほど大きかっただろうし、結婚する程の仲のハズ。忘れちゃうって、何? まさか、リアル記憶障害!?
「昨日はマーガレットだって言ってたのに、今日はスカーレットになっていて、明日はバイオレットになるんだ。なんとかレットなんだな、と思って、もう聞くのも辞めた。適当に作り話で整合性を出されても、意味ないだろ?」
「あー、うん。そうだね」
 私も、そんなことにならないように気をつけよう、と思った。


「さあって、じゃあ帰るか」
「そうだね」
 キーリーどころか、ジョエルまで帰る気満々だ。どうしてだ。
「何故だ。まだ帰省してないでしょうよ!」
 何しに来たんだよ。墓参りはしたが、実家も近いって言ってたじゃん。行けよ。そのために来たんだよ。
「魔境に、女は連れていけない」
「魔境って何だ。自分の家でしょう」
「うるせぇな。自分の嫁が親父に惚れたら、生きていけねぇだろ。いい加減、わかれよ。お前だけは、連れて行きたくねぇんだよ」
「な、何を意味のわからないことを。私は、ジョエルを見ても惚れない女だよ? どんなイケメンが出てきたって、動じないよ」
「ナズネェ、ジョエルをいじめないで!」
「だ、大丈夫だよ。ナデシコ」
「え? 何が?」
 ナデシコとジョエルは、やっぱり仲良しだ。この街に来てからも、ずっと2人で楽しそうにしている。なんで、この2人で結婚しなかったのだろう。いや、ジョエルはともかく、ナデシコに去られるのは、私が困る。指摘しないでおこう。
「とりあえず、キーリー1人で行ってきたら、どうだ? 無事な姿は見せた方がいいし、様子を見て、大丈夫そうだと思ったら、ナデシコを連れて行けばいい」
「そうだな。ちょっと顔を出してくる。2人を頼んだぞ」
 ジョエルの提案で、キーリーは1人で出かけた。ついて来られたくないからか、走って行かなくてもいいと思うんだけど。


 ただ待ってるのも暇なので、街を散策することにした。
 異国情緒もあって、森林浴もできて、とても不思議な場所だと思う。
「なんか美味しいものとか、あるかなぁ」
「多分、向こうの方に店があると思うよ」
「ジョエルも、来たことがあるんだ」
「いや、初めて来たが、そんな音が聞こえるだろう?」
 いえ、まったく聞こえませんよ。スーパーエクセレント超人様は、耳のつくりも私とは違うようだ。

 ジョエルの言う方へ歩いていくと、市場があった。カラフルなタープが沢山並べられていて、いろんな商品を売っている。
「おぉお。相変わらず、わかるものがほぼない。美味しい物は、どれなの?」
 心の叫びを、つい口に出してしまった。だが、ノリのいい人が1人いると、大体、かまってもらえるものだ。
「何言ってんだ、姉ちゃん。全部美味いに決まってんだろ。うちのなんて、特に美味いんだぜ?」
「箱入りすぎて、食べ物もわからないんだよ。これ何? 野菜? 果物? 生で食べれる?」
「マジか? そりゃあ、すげぇ。こんなどこにでもある物を知らねぇとか、どこのお嬢様だ。これは、アテモヤだ。聞いたこともないか? 美味いから、いっぺん食ってみろ」
 白緑のとげとげをナイフで割って、差し出されたので、食べてみた。大丈夫。お代が少々高いくらいなら、払える。地龍鉱石店は、無敵だ。
「何これ。あま。ただの果物がお菓子の味って、どういうことだ! ちょっとおっちゃん、オススメ片っ端から売って。食べ方説明付きで、ヨロシク」
「毎度ありぃ」

 自分が食べたい物と、シュバルツへのお土産と、キーリー宅へのお土産を片っ端から買い漁っていたら、女の人に声をかけられた。
「もしかして、キーリーが連れてくるお嫁さんって、あんたたちかい?」
 恰幅のいいおばちゃんと、シュッとしたおばちゃんと、どちらかの娘さんかと思われる3人組に声をかけられた。
 キーリーのお嫁さんというワードに、思わず否定したくなったが、多分、私たちのことで間違いない。
「ええっと、そうです。何を隠そう、このジョエルこそが、キーリーの最愛の人でして、、、」
「まだそんなことを言ってるのか」
 呆れ顔のジョエルの後ろに隠れた。今日のジョエルは、男装だ。説得力はないかもしれないが、ナデシコは人身御供にできない。ジョエルしかいない。
「あら、まあ、そうなの! そうじゃないかと、思ったのよ。素敵な人じゃないの。良かった、安心したわ。是非、うちにも遊びにいらしてね」
「ありがとう御座います。キーリーとの関係をお伺いしても宜しいですか?」
 流石、何でもキラーのジョエルだ。おばちゃんたちのハートを射止めたらしい。
「あら、やだ。私ったら。ごめんなさいね。私は、キーリーの母のマーガレットです。よろしくね」
「私は、キーリーの母のスカーレットです」
「私は、キーリーの母のコレットです」
 全員、母だった上に、3人目がバイオレットじゃなかった。レットシリーズは、あと何人いるのだろうか。


 あの後、おばちゃんたちは、誰の家に私たちを招待するかモメた上、私たちを1人ずつ連れ帰ることで合意した。なんでそうなるんだ、順番に全部行くよ、と言う話をしていたジョエルも、最終的には勝てなかった。兄ズもヤバかったが、母ズは最強だった。私を引き取ったのは、誰だっけ? 思い出せないが、バイオレットさんじゃなかった人だ。

 家に着いたら、キーリーがいた。ついてくんな、と怒られるんじゃないかと、びくびくしたが、笑顔で歓迎してくれた。良かった。
 全部ジョエルに丸投げしようと決めていたところで、三者面談はツラいのだが、とりあえず笑顔で適当なことを言っていた。キーリーが、終始笑顔で薄気味悪い。母の手前、言えないだけで、やっぱり勝手についてきたと怒っているのか。誰か助けて。

「ナズナは、何処だ!」
 ノックもなしにドアが開き、キーリーが入ってきた。
「2人目のキーリー?! 怖っ!」
「くっそ。やっぱりか。それは、俺の親父だぞ。お前、俺と親父が何歳違いだと思ってやがる!」
「同い年?」
「そんな訳あるか! 実父だぞ?」
 キーリーに、めちゃくちゃ怒られた上、お父さんとお母さんに笑われた。勘違いしてるのに気付いたけど、面白いから放っておかれていたらしい。最悪な初対面だった。
「なんだよ、こんなにそっくりなら、一目惚れとかする訳ないじゃん」
 余計な一言で、さらに機嫌を損ねたのは、言うまでもない。

 そこまでは、笑い話だったのだが。
 なんと、私たちは、キーリーが連れてきたキーリーのお父さんの新しいお嫁さんだと思っていた、という話に驚愕した。
 キーリーのお父さんの奥さんは、奥さん達の紹介制で知らぬ間に勝手に増えるものらしい。だから、今現在、奥さんは全員で何人いるのやら、お父さんにもわからないと言われた。今度は、キーリーが嫁をつれてくるのか、それでどこか遠方に出かけていたのか、という話になっていたそうだ。私の知らない世界だった。
「だから、魔境だっつったろ?」
「そうですね」
 いつもいつも心配しすぎだと思っていたが、こんなのが普通であったなら、仕方ないかもしれないと思った。
「あと2人いたハズだ。あれも俺の嫁だから、取るんじゃねぇぞ」
「1人は男だったよね? あれも嫁なの? すごいじゃないか。デーヴィドを超えたね」
「残念なことに、女装させると、あれが一番美人なんだ」
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