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第九章.これはハッピーエンドですか?

107.すっかり忘れてた

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「あれ? ここは、どこ?」
「俺の家だな」
「なんで?」
「酒を飲んだからだろう」
 起きたら、囲炉裏の横で、シュバルツの膝枕だった。シャルルに、オーナーさんちに泊まるな、と言っておいて、何をやっているんだろうか。姉にあるまじき失態だった。
「そっかー。酒に酔わない魔法は、失敗したかー」
 風呂から出て一杯かっくらう夢を実現しようと、頑張って開発したんだけどなぁ。
「魔法は成功していた。俺の監修があって、失敗などあるものか。酔わないなら酒なんぞいらんと、解除したシャルルが悪い」
「そうだね。酔わない酒なんて、面白くないよ。酒である必要性皆無だよ。次は、ほろ酔い魔法を開発しよう!」
 のそのそと起き上がると、周囲一帯、徳利と皿の山だった。私が、こんなに飲むハズがない。シュバルツは、酒豪だったのか。羨ましすぎる。
「反省点が、おかしくないか?」
「一晩寝ずに枕になっててくれて、ありがとう」
 最早、ふふふー、と笑って誤魔化すしかない失態だ。こんな時、賢い人は、どうやって誤魔化すのだろう。
「魔力をごっそりもらったから、構わない。それより、暇にあかせてモヤモヤを紫にする魔法を開発しておいたぞ。聞きたいか?」
「聞きたい! なんでまたそんなくだらない魔法を」
 前回、話をした時は、白い目で見ていたハズだ。まさかあんな顔をしておいて、頭の中では開発していたなんてことがあるのだろうか。難しい子だ。
「弟は愛でるもので、兄はくだらない相談を聞くものだと、昨日言っていたからだ」
「じゃあ、シャルルと身体を取り替える魔法も開発して! テスト前に大学に復学したいんだよ。学費免除のまま卒業しちゃいたいんだよ」
 授業を欠席し放しで、課題の提出もしていない。テストを満点取ったとして、特待生の身分が保証されるかわからないが、テストを受けれなければ、完全アウトだ。この顔のままじゃ、那砂として学校に行けない。とにかく早く元に戻りたい。
「それは真面目な相談だから、兄の仕事じゃない」
「なんでだ!」
「竜のオバケの幻影をまとう魔法なら、相談に乗ろう」
「意味がわかんないよ! なんで、そんなにイジワルするの?」
 やっぱり絶対、弟シュバルツの方が良かった! 兄シュバルツは、めんどくさい。
「もう2度と、シャルルを失いたくないからだ。名をもらった日のことを忘れていない。ああなるように仕組んだのは自分だが、あれは死ぬほどつらかった」
「仕組んだ?」
「気付かなかったか? シャルルを俺のところに飛ばしたのは、俺だ。当時の俺ではなく、わりと最近なんだが。得したのは、俺しかいないだろう? シャルルがもう少し丈夫なら、あのまま離さなかった。また同じ思いをするために、言うことをきくとか、俺はバカか」
 ひぃ。また、顔が怖い。自分で仕組んで、私を睨むのはひどいよね。これっぽっちも、私の所為じゃないじゃん。
「あー。あのね? あっちで暮らすことにしたとしても、盆と正月くらいは、戻ってくるよ? シャルルが協力してくれたら、だけど」
「無理だ。本当は、いつでもべったり一緒にいたいんだ。窓を作る間も1人ではいられない。どういうつもりでいたところで、シャルルが向こうで家族を作れば、もう戻って来れなくなるだろう」
「シュバルツ、飲み過ぎは身体に良くないよ」
「もう延命魔法も切った。最後の魔法も開発が終わった。いつ死んでも構わない。子どもは、全員見送ったんだ。もういいだろう。次は、シャルルに見送られたい。1人は、もうたくさんだ」
「朝だから、寝ていいよ」
「いなくなったら、タックルするからな」
 大人になって変わってしまったと思っていたが、そういえば、一番愛が重いのはシュバルツだった。反省した。

 寝室に行けばいいのに、シュバルツは、その場に転がってしまった。重くて運べないし、魔法を使うのは失敗したら大変だ。そのまま頭を撫でていたら、シュバルツは寝てしまった。
 今度は、私が枕になろうと思っていたのに、知らない間に一緒に寝てしまった。それをよりによって、シャルルに見つかって、めちゃくちゃ怒られた。泣かれた。返す言葉もない。


 大魔王魔法の進化に気を取られて、すっかり忘れていたが、私の第一目標は、身体の交換魔法だった。今日は、魔法の第一人者に会うため出てきたが、顔を合わすのが、ためらわれる。玄関の前まで来てみたものの、噂通りの真っ黒な建物にドン引きして、帰ろうとしたところで、家主が飛び出てきた。
「ちっ」
「いらっしゃい、お嬢さん。え? 舌打ちした???」
 トリトリ先生の本宅だ。いなくていいのに、在宅中だった。いや、在宅してると知って来たのだが。それでも、出てこなくて良かった。
「ちょっと聞きたいことがあって来たの。今、少しだけいいですか?」
「オレも聞きたいことがあるよ。なんで、村に近付けなくなってるのかな? ああ、とりあえず中へどうぞ」
「先生の所為で死にかけたって、シュバルツが怒ってるんだよ。風龍と地龍の二重結界だから、先生じゃ突破できないよ。突破しても、竜が村の守護神みたいになってるから、食べられちゃうよ」
 実際に魔法を使ったのは私だが、指導したのはシュバルツである。私は、先生だけ弾く結界なんて、そんな小難しいものは作れない。いや、単純なものなら作れるだろうけども、シュバルツが考えた結界は、とても性格の悪いものだった。あんなシチメンドウなものを、考える気にならない。
「ええと、中には?」
「入りたくないから、立ち話で結構です。入れたら、またシュバルツに怒られるよ。私も怒られ中だから、取りなしできないからね」
「それで、話というのは?」
「金ピカドラゴンの居場所を教えて欲しい。あれ、先生の知り合いなんでしょ?」
「知り合いではないが、案内しよう。少し待っててくれるかな?」
「案内はいらないの。場所だけ教えて」
「何故?」
「死ぬような思いをしたのは、シュバルツだけじゃないんだよ」
 なし崩しに何とかなったものの、何度恐怖を感じたやらだ。間近ドラゴンは、本気で怖かった。なんとかならなかった場合、シュバルツが消された上で、私も消されるか、監禁されるか、ロクなことにはならなかっただろう。
 元々好感度が底辺を突き抜けていた先生に対して、しょうがないよね、とは言ってあげられない。
「またオレは、何か取り返しのつかない失敗をしたんだね。今は、本当に悪気はないよ。感謝されたい一心だよ」
「私も先生の同類なんだよ。人の気持ちをないがしろにしてて、今追い詰められているんだよ。だから、アドバイスもできないよ」
「そうか。何か打開策を見つけたら、教えて欲しい。できないことでも努力はするよ」
「ん」
「光龍の居場所だが、、、」
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