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第九章.これはハッピーエンドですか?

106.大魔王魔法

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 私はまた家出をした。
 今回も、タケルは連れて来たが、置き手紙はない。シュバルツが協力してくれないから、グレたのだ。
 この度の家出の目的は、身体を入れ替える魔法を知ってる人か、一緒に開発してくれる人を探すことと、恐怖の大魔王になることだ。
 私は、大魔王魔法を開発してやったのだ。シラフでは、初披露だ。今後の改良のために、一般の方のご意見ご感想を是非ともお伺いしたい!


 恨みつらみを晴らすため、とりあえずタケルに出会ったあの街にやってきたよ。シャルル曰く、適当に街歩きをしていれば、カモが釣れるそうだから、食べ歩きでもしてみよう。今日は、フードマントなしの姿だ。龍になった私の敵など、そこらにはいない。誘拐できるものなら、してみやがれ。
「お嬢さん、どこから来たの? 見ない顔だね」
 早速、誰かに話かけられたが、カモかどうかが、まだわからないね。無難に無難に。
「私、ここの温泉が好きだから、遊びに来たの」
「美味しいカフェがあるんだよ。奢るよ。一緒にお茶しよう」
 腕を引っ張られて、無理矢理連れて行かれた。なるほど。私は、今までこの現象を奢ってくれるいい人だと思っていたが、キーリーの誘拐説を採用してもいいかもしれないと思った。右腕が、くっそ痛い。
 メニューを見せられても読めないし、何の店なのかもわからないし、よきにハカラエで済ませて、勘定の計算だけしていた。
 村人D並みに、女の子へのオススメ情報に詳しいそうなので、観光情報を一通り仕入れたら、もうこの人はいらないね。
 ベリーいっぱいくまさんパンケーキをいただいて、店の外に出たら、ショー開催目前だ。
「ご馳走様でした。じゃ、私、用事があるから、またね」
 このまま立ち去ることができたら、無事でいられたのに。まーた右腕掴まれてるし。痛いんだっつーの!
「手、なんで掴んでるのかな? 私が黒髪だから、何してもいいと思ってるのかな?」
 私は、半分だけ毛を逆立たせ、緑のモヤモヤをまとう。足下の石畳を割って、小石をいくつか宙に浮かせた。一番大切なのは、笑顔を忘れないこと。現在、開発中の大魔王魔法だ。モヤモヤを赤か紫に変更したいのだが、まだやり方がわからない。
「ひっ!」
 カモさんは、なんのご意見もご感想もなく、走り去って行った。仕方ない。石畳を修復したら、転移で先回りだ。
「なんで逃げるの?」
 また転移に失敗した。ひっくり返って、宙に浮いている。
「ぎゃあぁああ!」
 うん。これは、ダメだ。この人も、怖がりだ。この辺で許してあげよう。
 お兄さんのポケットに、パンケーキの代金とシャルル代筆のお手紙を忍ばせる。
「バイバイ」
 私は、次の街に転移した。


 次の街でも次の街でも、大魔王降臨だ。
 転移魔法で飛び回っていれば、ジョエルにも捕まらない。悪さを働いても捕まえる文化がない世界ならではの遊びだ。黒髪に手を出すとヤバい、という都市伝説を作りたいのだ。誰に止められても、やり遂げたい。

「シャルルちゃん、何やってるの?」
 絶対に見つからないハズだったのに、もうジョエルに見つかってしまった。さすが、ジョエルだ。
「大魔王ごっこ」
「なるほど。詳しい話を聞いてもいいかな?」

 ジョエル相手に逃げても無駄なんだと、ひしひしと感じられたので、後ろをついて行ったら、めちゃくちゃ高そうな建物に入ることになった。公園を見下ろす眺望の部屋に、ダイニングテーブルと、ソファセットとバーカウンターがある。
「ここは、何をするところデスカ?」
「平たく言えば、レストランかな? 個室だから、人目を気にせず話していいよ。あそこにいる人は、注文をした後なら、出て行ってもらってもいいし」
「レストラン?」
 個室にある席数が、おかしいと思うのだけど。
「ああ、小規模のパーティが気軽に開けるんだよ。ごめんね。手近な店を他に知らないんだ」
「パーティルーム? 2人で貸し切って、大丈夫?」
「良かったら、食事を頼んでもいいかな。お昼がまだなんだ。食べ終わったら、ダイマオウゴッコの話をしよう」
「え? あ、はい」
 メニューを見ても読めないと言ったら、お店の人が全部読んでくれることになったのだけど、3品目を聞いたところで挫折した。長くて、まったくわからなかった。⚪︎⚪︎仕立て、⚪︎⚪︎ソース、⚪︎⚪︎風と謎の呪文が続いて、だから何の料理よ! と思っただけだった。海の風を感じてとか言われても、海鮮なのかな、という以外、全くわかりようがない。同じのでいいです、で終わらせるのが無難だ。
「そこの公園で、パーカーが働いているんだよ」
「随分と大きい公園なんですね」
 パーカーって、働くの? 洋服じゃないの? すごい時代になったんだね。
「ああ、そうか。記憶を失ったと聞いたな。先日は、自己紹介をしていなかったね。失礼。わたしは、エメリーと申します。ジョエルの一番上の兄です。よろしくね。シャルルちゃん」
 道理で、頭が黒いと思った! ジョエルじゃなかった。
 値段が気になるおしゃれなコース料理を平らげたら、大魔王の説明タイムだ。なんでジョエル兄相手に、そんな話をしなくちゃいけないんだ。恥ずかしすぎる。やらなきゃ良かったと、初めて後悔した。

「なるほど。黒髪の保護と復権を目指しているんだね」
 なんか、とっても素敵に解釈して下さったので、そういうことにしておこう。怨みを晴らしてたとか、言うのはよそう。
「そういう訳で、市場調査に来てみたのですが、有用なご意見ご感想を頂く機会に恵まれず」
「少し見せてもらっても、いいかな?」
「、、、はい」
 切ない。恥辱プレイとは、今の状態ではなかろうか。
 髪を逆立てて、モヤモヤさせた。修復するとはいえ、お店を壊すのは申し訳ないので、小石はナシだ。
「人に危害を加えないで、見た目だけで怖がらせるのが目標なのです」
「確かに不思議ではあるものの、それじゃあ可愛いだけじゃないかな。人によっては、神々しいと言うかもしれないね」
「か、、、」
 もう泣きたい。帰って、シュバルツに泣きつきたい。
「実現可能かはわからないけれど、急にツノが生えてきたり、羽が生えたりしたら、どうだろうか」
「やってみましょう」
 クレイジーを目指して、右のおでこにねじねじ角を一本くっつけて、背中から一対の蝙蝠羽を生やす予定が、もふもふの羽になった。何コレ。失敗だ! 魔法、難しすぎる。
「おお、すごい! じゃあ、次は、、、」

「お兄さん、ありがとう御座いました。そろそろ遅いので、帰りますね。また困ったら、相談に乗って下さい」
「ああ、いつでもおいで。待ってるよ」
 私は、上機嫌で宿に帰った。


「ジョエルー、ただいまー。お兄さん、めちゃくちゃ素敵だねー」
「え? 兄? どの兄? どうして兄?」
「お散歩してたら、たまたま会ってね。ジョエルだと思ってたら、お兄さんだったの。超格好良いよ。ベストオブ兄だよ」
「ちょっと待て。お前は、兄には興味がないんじゃなかったのか?」
 ジョエルとキーリーは、仲良く食堂で麦酒を飲んでいた。いいなぁ。私も飲みたい。ひとっ風呂浴びて麦酒、いいね。
「そうだね。兄には興味はないけど、素敵な人もいるんだな、って思った。まさか、あんなくだらない相談に、親身になって下さる人がいるなんて。ジョエルが羨ましいよ。このご恩は、どうやって返したら喜んでもらえるだろう。もうお腹いっぱいだから、お風呂入って来ようかな。じゃあね」
 シュバルツ宅まで、魔法でひとっ飛びだ。どんどん筋力を落として、シャルルに怒られそうだね。
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