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第一章.美女と熊と北の山

5.職業変更

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 朝起きて、またこっそり出かけようとしたら、今度は、宿を出る前にキーリーにとっ捕まりました。くそう。何故、バレたし。 
「お前、バカだろう。こんな村、何かあったら警備兵が来る前に壊滅すんだよ。最大戦力のお前を大事にすんの、当たり前じゃん。仮令、モンスター倒すついでに村人殺されたり、家壊されたりしそうでも、必死なんだよ。全員、俺んとこに告げ口に来るし」
「まだ宿出てないよ」 
「ドアが開いた音がしたからな」 
「静かに開けたよ」 
「お前の部屋のドアは、この宿1番のチョウツガイがサビたドアだ。静かに開けても、俺にはわかる。寝てても気付く。わざわざ声をかけないだけで」 
「村ぐるみだ!」


 なんか、色々諦めて、朝ごはんを食べることにした。今日は、お父さんの奢りだ。この食堂だけなら、2人がいなくてもツケで食べれるらしいけど。さっきの話からいくと、村中の家でタダ飯が食べれそうだよね。 
「お粥以外が食べたい」 
「はい、シャルルちゃん。オムレツどうぞ」 
「きゃー、ダコタさん。素敵!」
 オムレツとパンとサラダとスープのセットに、赤いジュースのおまけ付き。村の食堂の分際で、こじゃれた盛り付けがされている。昨日は、そんな店じゃなかったのに。原材料不明だが、とても美味しそうだ。 
 キーリーの払いなら、遠慮はいらない。早速、頬張る。トロトロのプレーンオムレツ美味しい。
 ダコタは、宿屋の息子さん。昨日、窓の外にいたらしい。名前は、昨日覚えた。ダコタがバイトだったら、交代のチャンスがあったかもしれないのが、残念だ。気が利く人だから、交代できる気もしない。私の敵だ! 
「なんだよ。勝手に持って来やがって。注文してないから、それはお前の奢りだからな」
「いいですよ。シャルルちゃんのごはんなら、いくらでも奢りますよー」 
「そうか。ジョエルに言っとく」 
「ひっ」 
 ダコタは、厨房に行ってしまった。 
「まだ注文してないのにー」 
「呼べば来る。それより、今日はどこへ行こうとした?」
 目が怖い。抜け出そうとした話は、もう終わってると思ったのに、しつこい。 
「しつこい男と口うるさい男は、モテないよ」
「そりゃ安心だな。ジョエルが喜ぶ」
「母さんがいないところまで、ノロケ話はいらないよ」 
「まじヤメロ。お前、そろそろ気付け」
 大丈夫だよ。冗談だよ。気付いてるよ。2人が愛し合っていないことくらい。あれ? 必死で否定するのは、怪しいんだっけ??? まぁ、いいか。どっちでも、私は関係ないし。 
「あのね。私もいろいろ考えたんだけど、薬師っぽい何かになれないかなー? って」 
「急にマジメか。働く話は、まだ諦めてないのか」 
「そりゃあそうだよ。いつまでもたかってるって、気持ち悪いし。2人だって、安全に稼げるなら、収入アップは嬉しいでしょ?」
「いや、収入がなければ囲い込みが簡単だ」
「必死だ!」 
「必死だぞ。気付け。住み込みで飯食わせるだけで雇える女も魔法使いも、お前くらいしか見たことねぇ」
「だから、お母さんは裏切らないって。一緒にいるなら、収入アップは歓迎してくれるよね?」 
「俺はな? だが、ジョエルはお前を甘やかして甘えられたい自称姉の末っ子だ」 
 ダメ人間製造機だ! そして、何かをこじらせている。あの人は、何がしたいんだ。 
「あいつは、『薬師になりたいぴょん』で甘えて籠絡するとして、なんで薬師だ?」 
 チョロインか!?
「ぴょんはしないけど。私、植物を増産できるでしょう? 植木鉢に薬草植えといて、増産しながら薬作ったら丸儲けかなって。珍しい薬草手に入れて、難しい創薬を勉強する当てはないんだけど。ソーヤーさんが、薬が欲しいみたいな話してたし、物によっては、自分たちが1番のお客様だよね?」 
「シャルルにしては、考えたんだな? だが、やりたいことなのか? 何もしなくても、タダ飯は食えるんだぞ?」 
 やりたいことかどうかなんて、考えてなかったけど、現状すること何もなくて、つまんないんだよね。バイトと学校と家事をかけもちするほど働かなくても、何か少しくらい仕事したい。 
「やってみたら嫌になって挫折するかもしれないけど、何もしない今が嫌なんだよ。いざという時以外も、活躍したいんだよ」
「ふーん」 
「とりあえず、村の人が全員作れるとかいう薬の作り方から教えてもらおうと!」
「オーケー。ダコタ来い!」
「ジョエルさん、いない?」 
 キョロキョロ不安そうに厨房から出てきたけど、ジョエルはダコタさんに何かしたんだろうか?
「お前の作れる回復薬と毒消し一通りをシャルルに教えてくれ。給仕は、俺がやっとくから」 
「え? シャルルちゃんと? いいの?」 
「ああ、ジョエルは今日は、熊狩りに行ってるから。帰ってくる前に手早くな? あいつ、剣士のくせに素手で熊仕留めるバカだから」 
「ひいっ。薬の作り方だけ、手早く伝授させていただきまっす!」
「よろー」 
 キーリーは、ひらひら手を振って厨房に入って、食事を持ってきて、食べ始めた。給仕が食べてていいのだろうか。朝ごはんは、ほぼ村の人は食べに来ないから、いいのか。


 ダコタの案内で、倉庫みたいな部屋に来た。食材とか、日用品とかが棚に並んでいて、真ん中に小さいテーブルが置いてある。ダコタが、隅からイスを2脚引っ張りだしてきたので、それに座らせてもらう。 
 現物の薬草を見せてもらって、名前と他の草との見分け方を教わった後、刻んだりすり潰したり煮込んだりして、実際に作ってみる。
 最初は、倉庫にいたけど、途中、キーリーが入ってきて厨房に移動した。ダコタが怯えている。ジョエルだけじゃなく、キーリーも怖いようだ。確かに、さっきのキーリーの顔は怖かった。私も、殺し屋が来たかと思った。背景顔のくせに。 
 だが、それは今はどうでもいい。大事なのは薬だ。紙は高価みたいだからあまり使いたくないのだが、ちっちゃい文字で、ダコタの話を全部メモらせてもらった。途中、関係ない話が混ざっていたが、ペンで書いた文字は消せない。夕日のキレイな丘だとか、春の花畑とか、創薬に何の関係があるのだろうか。花が材料になるのか。夕日は無理じゃないか。鉛筆と消しゴムが欲しいと思った。紙を無駄遣いしてしまった。 
 でも、おかげでみんなが作れるという薬は作れるようになった。ちょっと変わった料理をする感覚で作れたので、たいした負担ではない。作るの面倒くさいなー、って思う人には、安価なら売れるかもしれない。 
 こちらに来て、初めて仕事ができそうだ。ワクワクする。


 お昼を食べに食堂に行ったら、熊を担いだジョエルがキラキラしていた。見たことないくらいたくさんの村人でひしめき合っていた。
 私は、熊が怖くて、気絶した。 

 今回は、魔力切れじゃないから、わりと早く目が覚めて、熊汁をご相伴に預かりました。熟成が足りないから味はイマイチだと皆が言ってたけど、味よりもあんなに怖がってた熊を普通に食べた自分が怖かった。
「ごめんよ。血まみれはダメかと、刃物厳禁で持って来たんだけどね」
 うん。こちらこそ、ごめんね。こないだの食べたいは、本気じゃなかったとか、言ったこと自体忘れてたとか、今更、言えない。もっとちゃんと否定しとけば良かった。しかも、そんなくだらない理由で武器なし縛りするとか意味がわからないし、危ないだけだからやめてほしい。
「そこのバカは、ソロならこの辺では敵なしだから、気にすんな。そいつを倒せそうなのは、シャルルくらいだ。うちのランクが低いのは、ランクを上げると振られる強制任務をやりたくないからだからな」
 キーリーは、今日、食堂の売り上げ新記録を出したとかで、無料飲み食べ放題をしている。ずっとダコタに圧をかけていたのに、仕事をちゃんとしてたらしい。そういえば、さっき信じられないくらい村人がいたもんね。食堂のお客様だったのか。 
「何が大丈夫か、まったくわからないんだけど、もっと上のランクの人と組んだ方が良くない?」
「色目使ってくる女とも男とも組みたくないし、その日のうちに、ここに帰って来れない仕事は嫌だね。男とも女とも扱ってくれないルルーが、1番いい。姉と呼んでくれないか」 
「ダメだよ。お母さんだから」
 私には一生縁のない話だけど、生活に支障をきたすほど、イケメンは大変なのだろう。お気に入りの村が見つかって良かったね。
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