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34.家族への思いを暴露する

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 ダンジョンを出て、帰ろうとしたところで、父さんに出会った。鳥でも獲ってきたのだろうか。獲物らしきものは、袋に入れられていて、何だかわからなかった。
「おかえりなさい。狩りの帰りですか?」
「ああ、ただい、ま? 琥珀、今度は、何を始めた?!」
 何を答える前に、抱き上げられ、運ばれた。
 父さんは、持ってた荷物を放り投げ、私をさらうかの如く抱えたら、走り始めたのだが、何があったのだろうか。
「どうなさったのですか? 私は、緑小鬼キングごっこをして遊んでいただけですよ」
「それは説明になってない。シュバルツ、薬を持ってこい! 100個はいるぞ!!」
 父さんは、お父様の家にズカズカ上がり込み、私を子ども部屋の1つに押し込めると、服をむき始めた。この家には、会いたくない人が何人もいるので、来たくないのに!
「痛いじゃないですか。やめてください。何をするんですか!」
 暴れて抵抗してみたが、あまり意味はなかった。すぐに、お父様が増えたので、魔法を使って逃げることもできなくなった。
 頭から足先まで、特級傷薬を塗られて、折角作った傷を全部なきものにされてしまった。ワイルド緑小鬼キング計画が、台無しである。鼻の上の傷とか、いい角度で入って気に入ってたのに。
「で、これは何なんだ」
「知らん。ダンジョンから出てきたようだったが」
「緑小鬼にやられたのか。潰そう」
「そうだな」
 急に呼ばれたお父様も父さんも、ご機嫌ナナメの様だった。この2人は、機嫌を損ねると人でも殺しに行きそうな風情になるので、一緒にいるだけで本当に怖かった。
 ただの誤解で、緑小鬼王国が滅ぼされる危機に瀕してしまった。これは、マズイ。キングとして、なんとかしなくては!
「パパー、助けて!! お母様、助けて!! ママ、助けて!!」
 他力本願上等である。私の力で勝てないなら、勝てそうな人を呼ぶしかない。可愛い部下たちを守るためなら、人外大戦争が起きても、目をつぶろう。
 お母様とママは、家にいたのだろう。私に遠慮して近付かないようにしていただけで、こちらを気にしていたに違いない。すぐにやってきた。パパはどこにいたやら知らないが、恐ろしい地獄耳と速足で、お母様と大して変わらないタイミングでやってきた。
 あとは、私の得意芸を披露するだけだ。顔を白くして、力無く静かに泣くのである。説明などいらない。なんて言ったらいいか、わからないし、考えるのも面倒だ。父2人に挟まれて、全裸一歩手前の息子が全身べたべたで泣いている状態をどう捉えるか、勝手に想像してもらう。
「何をやってるの、2人とも!」
「!!」
「琥珀、大丈夫か?!」
 今の私は、腫れ物息子なのだ。なんとか印象をあげようとする人材に媚びを売るのは、簡単だと踏んだ。
「パパの言うことを聞かず、申し訳ありませんでした。父さんと2人きりになったら、こんなことに」
 嘘ではない。
「違う! 傷薬を塗っただけだ! 誤解を招く言い方をするな」
 父さんは、まだ怒っている。
「傷など、どこにもないじゃないか」
「薬で治ったからだろう」
 お父様も、まだ怒っている。だが、知らない。乱暴な扱いで、痛い思いをしたのも事実だ。私の機嫌だって、底辺だ。
 ママが、大判のタオルでくるんでくれたので、パパがお風呂に連れて行ってくれた。

「それで、本当は、何があったのかな?」
 今日は、自分でできるのに、またパパに頭を洗われている。前に洗ってもらった時より、力が強めな気がする。頭をカチ割られたら、痛いだろうか。
「それが、私もよくわからないのです。父さんに挨拶したら、有無を言わさず抱きかかえられて、連れて来られたのです。お母様には会いたくないのに」
 楽しく緑小鬼キングごっこをやっていた。見た目も、キングに相応しくなろうと努力した。お父様に、自分を緑にする薬の作り方を聞いた方が良かっただろうか。
「本当に?」
「私が、好き好んでここに来ると思われますか?」
 お母様にも、ママにも、お父様にも、メイジーさんにも、カワウソにも会いたくない。会いたくない人しかいない家だ。疑う余地もないと思う。
 それなのに、パパは追及をやめてくれない。
「でも、さっきは、シャルルも呼んでたよね」
「誰でもいいから、助けて欲しかったので」
「助けてくれる人には、入ってるんだ」
「お母様のふざけているところは、それ以外ですから」
 息子の窮地を知れば、助けようとはしてくれる。問題なのは、窮地に陥っても気付かないことだ。人任せで、何ヶ月でも放置する。顔を見にも来ない。こちらから連絡をすることもできない。都合の良い時だけ、甘えて欲しいと言われても、誰がそんな母になつくのか。
「わかった。そういうことなら、今回は、忘れよう。でもね、ああいうのは感心しない。人の心を失うよ」
「そうでしょうね。でも、ご心配には及びません。どうでもいい人にしかやりませんから、大丈夫ですよ」
 説教をたれていた、パパの身体が固まった。
「え゛」
「むしろ嫌われたら、丁度いい。エスメラルダさえいてくれたら、後はいりません。パパのことは好きですが、信頼を失ったので、いなくてもいいです」
「琥珀?」
 キレイな顔で震えているが、見慣れた顔だし、どうでもいい。なんだかんだ言ったところで、スフェーンの時、みんなの中では私は半殺しにあっていたハズなのに、家族会議が終了するまで、誰も助けに来なかった。あれは、私への信頼ではなかった。口では人並みな台詞をほざいているが、私を真剣に心配している家族は、誰もいない。それを愛されていると捉えるのは、無理しかない。
「エスメラルダが、ここにいたがるからいるだけです。追い出された後、エスメラルダが付いて来てくれなかったら、飛竜のエサになろうと決めています。死んでも無限に肉が湧いてくるなんて、優秀なエサだと思いませんか?」
 私の能力を発揮する場は、まだ残されている。家族に縁がなくなっても、飛竜は私を大切に食べてくれるかもしれない。
「何が気に入らなかった?」
「ここのところ、少し死にすぎて、死ぬほどの痛みが気にならなくなりました」
 今日の天気は雨ですね、と、また死んでしまいましたか、が同じ程度に感じられる。衝撃が強すぎると、痛覚は仕事をしないものだと知ってしまった。そのため、恐れもあまり感じられなくなった。
「それは危ないよ。早急に対策を考えよう」
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